鬼平班課長(鬼平犯科帳) 5月号 鬼平の美味しんぼ

 

 

鬼平班課長補佐 異毛並甘太郎

 

鬼平でござる

 久しぶりに鬼平班課長 異毛並甘太郎の手控帳

舐め蕎麦味噌

霜月(十一月)に足をかけたある日の夕刻。
すでに陽は落ちて すき間風も身にしみ始める頃、本所菊川の役宅で風呂から上がり、温もった処でいつもの酒肴に親しみながら同心たちの報告書を読んでいた。
 そこへ門番から、下帯一つにムシロをかぶっただけという奇っ怪な男が「銕っつあん・・・・いや長谷川平蔵さんはおいでかね」と声をかけてきたという。
あまりの汚さと胡散臭さもあり、「誰だねアンタは」と問いただすと「井関録之助が来たと言ってはくれまいか」とのこと。
 あんまり見難い恰好なので、つまみ出そうかと想ったものの「なんであれ、俺を訪ねてきたものは耳に入れるように」とのお言葉でしたので・・・・・・
と、乞食然とした風体から、アカとあぶらぎった体から吹き出すような異臭に鼻も曲がりそうで少々困り果て、まずはご報告をと、取り次いできた。
「何ぃ井関録之助と申したんだなその男・・・・・・
こいつぁ又珍しい奴が来たものだ、すぐさまこれへ」
 「はぁでもよろしいので?・・・・お庭の方へ回らせましょうか」
 「なぜだ?」
 「ひどいもひどい、あのような酷いものはこれまでに見たこともございませんので・・・」
 「そんなにひどい格好かえ?まぁよいよい、ではそうしろ」
平蔵は行燈を下げて縁先に録之助を待ち構えた。
立木の向こうの枝折り戸が開いて、門番が録之助を案内してきた。
 「録之助!またとんと風流なこしらえではないか」とニヤニヤ笑う平蔵に、
 「おっ平蔵さん覚えていてくれましたかえ」と、ぼそぼそ頭を掻きながら録之助 「忘れるものかぇ、お前ぇたぁ随分悪さをした間柄じゃぁねえか、ええっ、なぁ録之助」
 「これはまた、いやかたじけない。
全く昔と少しもお変わりになりませんねえぇ」
 「当たり前でぇ、饅頭のアンが辛くなるはずもねぇやな。
所で、なにか話でもあるのかえ、それとも・・・・・・」
 「おっと小遣いでもねだりに来たとお想いで?
それよりちょいと相談に乗ってもらいてぇ話があるんで」
 「それにしても臭ぇ、おまえさんいつから風呂に入ぇってねえ?」
 「う~ん 半年前に入ったばっかりで」
 「ばっかりだぁ? こいつはいいや、おい 誰かおらぬか?風呂の支度をいたせ」
 「俺はまだ入りたくはないけどなぁ」
 「ま、話はそれからだ、風呂場へ行って温もってこい」 
やがて、綺麗さっぱりひげもそり身支度を整えて部屋にやってきた。
 「まぁお若い!」妻女の久栄が驚いたほどで、 
平蔵より四歳年下の四十歳だというが、はつらつとしている。
 「俺も乞食がして見てぇ」と平蔵は録之助をからかった。
この井関録之助、かつては三十俵二人扶持身分の御家人の家に生まれたが、
録之助も平蔵同様に妾の子で、父親が放蕩した挙げ句吉原遊女と心中を図ったことから家名断絶。
録之助は大坂へ逃げ、王子権現社裏の小屋を借りて小さな道場を開業するも、興味半分に集まった近隣の農夫や町人に恩師・高杉銀平直伝の厳しい稽古を課したため、弟子が根を上げて寄りつかなくなる。
三年ほど続けたが、その間ずっと道場には閑古鳥が鳴いていた。
困窮のあまり仕掛を引き受けるが、仕掛けの当日の朝、我に帰り仕掛けを思い留まり元締めに断る。
裏稼業を知ってしまった彼を元締めが許すはずもなく、刺客から逃れるため江戸に逃げてきたという訳である。
品川宿まで辿り着いた頃、この汚い身なりで門付けをするものだから、泥棒と見間違えられて追い払われるところを、たまたま同心酒井と平蔵が見てしまう。
 録之助はそうとも知らず、品川三丁目の遊女屋(坂本屋)の裏口でくれた残飯をたらふく食べ、貴船明神の床下に潜ってとろとろとうたた寝をしていた。
その時近くで人の通りかかる気配がし、一人の男が貴船明神社の裏手北側は目黒川になっており、その岸辺に腰を下ろした。 
するともう一人男がのろのろ近づいて「お頭は、いつ来なさるね?」と聞いた。
「今日から七日目の夜までには江戸にお入ぇりなさる」
「よし判った」
「おつとめは師走に入って間もなくにしてぇ、と 言ってなさるぜ」
「いいだろうよ」
「ぬかりはあるめぇな鍋蔵どん」
「うむ、大丈夫」
「何しろ、目指すところは隣の質屋だ。今度は細工も楽だったろうね」
「まぁな」
「じゃぁ、いずれ・・・・・」
その時後ろの方で物の動く気配がした。
貴船明神の縁の下から乞食坊主が這い出してきたのだ。
法衣らしき物はまとっているが、異様な雰囲気と体から放つ異臭に一瞬たじろいたが、「や!野郎!!」
惣助が懐の匕首をまさぐる手を鍋蔵が押さえた。
「野郎、確かに俺達の話を聞きやぁがった、なぜ止めるんだ!鍋蔵どん」
「場所が悪い、見ろよ、河の向こう岸で煮売屋の女房が子供を遊ばせている。
惣助どん、あの坊主の後をつけろ。
居所を確かめたら俺のところへ知らせろ!こいつは二人で始末しなきゃぁお頭の耳にでも入ぇったら大変だ、俺達が攻めを負って死ななきゃぁなるめぇ」
こうして録之助はこの男どもに追われる羽目になった。
翌日鍋蔵は両国一体の盛り場に勢力を持っている香具師の元締め(羽沢の嘉兵衛)に会い「人一人殺ってもらいてぇので・・・・」
と頼み込んだ。
 「このことはうちのお頭には内緒にしてもらいてぇ」と鍋蔵
「いいとも、その代わりちょいと金高が張るぜ。
殺す相手が誰彼なく、一人百両だ」と足元を見てふっかける。
「そそそっ そいつは・・・・・・」
こうして鍋蔵と惣助の二人は本所相生町の小間物問屋(伊勢屋重右衛門)へ押し入り、主人夫婦を脅して、手元にあった八十二両を強奪。
翌々日棲家にしている小屋へ戻りかけた録之助を鋭い刃風が襲いかかってきた。
松平陸奥守下屋敷の土塀が連なる塀際の雑木林を出たところであった。
その刺客の顔を見て録之助「やっ お前は菅野伊介ではないか」・・・・・・
刺客は其の声に驚き、「知らなんだ!知らなんだ!知らんことで!!」と驚きの声を上げた。
この刺客、録之助と共に、平蔵や岸井左馬之助とも一刀流高杉銀平道場の同門であった。
伊介!おぬしには、酒の飲み方から女の抱き方まで、身銭を切って教えてやった、其の恩人の命を奪おうなどとは、真に持って太ぇ了見だぜ」
この一件の後、伊介は犬の血のついた法衣を東両国の羽沢の嘉兵衛宅に持ち込み
「殺ってきましたよ」と渡し、三十両を受け取った。
これが録之助のかいつまんだ話であった。
 「まぁとにかく腹も減っておろう、丁度な、久栄が蕎麦味噌と茄子の卵とじをこさえたゆえ、一緒に喰わねぇか?」
「そば味噌かい、そいつはまた嬉しいね、昔高杉先生の道場に通った頃を思い出すよ」と録之助は懐かしむ。
「こいつはな、酒に三温糖を入れて溶かし、そこへ味噌、しかも八丁味噌だぜ、こいつに大豆・ごぼう・唐辛子を細かく刻んで混ぜ込み強火で煮る。
煮えたら酢を入れて弱火でチョロチョロ、ホウロクに蕎麦を入れて弾けたらこいつを入れて色目が変わったらただただかき混ぜる。
色は黒ぇが録之助、今のお前ぇみたいだがな、こいつは旨ぇあははははは・・・・・・」
「こいつを温けぇ飯にまぶしても応えられねぇが、酒肴にゃぁいけるぜ」
もうひとつの茄子、これはな、俺の好物でよ、それ口にも上っておろう(秋茄子は嫁に食わすな)とか・・・・のう久栄」
「あれ 殿様・・・・・」
「おっとっと 口は災いの元じゃぁのう録さん」
「平蔵さんこの茄子も久しゅう食べたことがない、いやぁ 実に旨い」
「そいつはな、茄子を斜め切りにして水に晒しアクを抜く、水気を取った後昆布出汁に砂糖・味醂・酒・醤油を入れてひと煮立ち。
溶き卵を半分と少々入れて弱火でチョロチョロ・・・・・・
卵が固まり始めたら残りの卵を入れて出来上がりじゃぁ、刻み海苔でもあれば申し分ない・・・・・のうご妻女どの」
「まぁ日頃のご修行がお役に立ちますこと」
「おいおい まだ怒っておるのかえ?録之助の手前だ、
俺にも花を持たせてくれ、なっ!」
「所で話の続きだが・・・・・」
「それよそれ、話というのは頼み事なんだ。
この菅野伊介、平蔵さんも御存知の通り、あいつは三十表二人扶持の御家人で俺と同じ妾腹の子・・・・・おっとこいつは済まぬ事を・・・・・・」
平蔵も四百石の旗本であるが、故あっての妾腹であることを思い出し、悲しげに微笑みを浮かべながら「あい判った!俺は菅野にはこの事件が落着するまで会うまい、おれの母親の実家が巣鴨の三沢仙右衛門宅へ預けておけ、道中警護に沢田を付けてやる、こいつは小野派一刀流皆伝の腕前、俺とてまともにやり合ぅたら勝つ自信は無ぇ」
「ありがてぇ、よろしく頼みますよ平蔵さん」
こうして柳島源光院の離れに潜んでいた菅野伊介は盗賊どもから隔離された。
それから二カ月あまりの時が駆け去った。
時は十二月三日夜半・・・・・
品川の質屋(横倉屋)で古河富五郎一味はお縄にかかった。
その翌日。「禄さん、巣鴨村へ行って、菅野伊介に会おうじゃぁないか」と平蔵が言った。
そこへ巣鴨の三沢家の下男、太吉が駆け込んできた。
「どうした太吉」
「おあずかりしておりました菅野様が、今朝裏の物置で・・・・・・」
「何とした!」
「胸を突いて自害なされましたので・・・・・・」
遺書もなく、何も言い残すこともなかった。
平蔵と録之助もその気持はわかりすぎるほどよく解っていた。
生きるとは死ぬことと見つけたり。
武士でなければ、いやさ、侍ぇを捨てることさえ出来ておれば道も残されていたであろうになぁ・・・・・・
「おれはそっちを選んだんだがなぁ、落ちるところまで落ちても伊介はやはり最後まで侍でいたんだなぁ平蔵さん」
庭先の寒椿の赤い花に白いものが積もり始めていた。
「やっ こんな風に奴の胸の中は寒かったんだろうよ録之助・・・・・・・」

妙義の團右衛門
 菊川町の盗賊改方役宅で下男の一人が急の病で倒れ、口入れ屋から一人雇いこんだ。
身元口入れは平蔵とは昔なじみの風速の権七。
 まかない人の名は、竹造 在は信州上田と言うことであった。
「もう二年になりましょうか」真によく働くもので、与力・同心からも気を許されていた。
本所菊川町の役宅に出入りを許されている数名の与力・同心も、この役宅内の長屋にそれぞれ家を構えて暮らしており、したがって、平蔵にもこの男のことは伝えられていた。
 「それが、なかなか こっち(腕)が達者で、いやぁ驚きました。
村松殿もたいそうお気に入りのようで、今ではほとんどこの竹造に任せている始末でございます」と報告があった。
「あっ 御頭! 竹造の烏賊の墨作りが中々の物で・・・・・
本日は生きの良いイカが魚河岸より届いております」と、さすがにくしんぼうの忠吾、話は食の報告からであった。
「よし! それでは竹造とやらに任せよう」と、平蔵が答える。
やがて運ばれた酒膳を見て「こやつ なかなか達者とみえるのう、このさりげない飾りがますます食をそそる」と
いっぺんで気に入った様子に、村松もほっと胸をなでおろした。
平蔵はこの黒イカがおおいにお気に召したようで、「その竹造とやらを、どれ見舞ってみるか」と平蔵がまかない部屋に足を運ぶ。    
「竹造とやら、中々腕のほうが立つそうなのう」
竹造は目の前の人物が誰か知らないものだから、与力・同心と同じように返答する。
「へぇ 烏賊は能登の朝採れスルメを使いやす、生干しにして水気を飛ばすと旨味のみ残りやす。
それから烏賊を細く筋通りに下ろしまして、ワタ袋にベタ塩をまぶし一晩置きます。
墨袋を除き中を洗ってシゴキ、能登の珠洲塩・酒・味醂・砂糖を取り混ぜ、そこに切り分けた烏賊をいれます。
ゲソも腸も洗った物を刻み入れ、ワタを清水で洗い、裏ごしして引っ掛け、墨袋をしっかり絞り出して混ぜやす。
柚子やスダチを混ぜ込むと更に風味も増しやす。
これを毎日かき混ぜながら四~五日置きやすと、お口になされた、このような味に仕上がりやす へぇ」。
「ふむ なるほど いや!あの歯ごたえに柚子の香り、ほどの良い塩の旨味。
フ~ム成る程成る程、所でその和物は何だえ?」平蔵は目ざとく膳に乗りかかっている一品に目を留めた。
「へぇ これは干しずいきと言いやして、越中の名物でございやす」
「干しずいきとな、どれどれ ふふ~~~~ん 成る程、この歯ごたえが中々に良いではないか」
「へぇ 干しずいきを砂糖・醤油などで味付けし、すり身の豆腐に人参、ほうれん草なぞと混ぜあわせやす」
「いやぁ 白和えの旨味が乙で、これぁ肴にも良く合うぜ、ついでに干し柿でも刻んで入れれば尚更甘みも出て・・・・・のう竹造」
「おかしら もう一つお薦めのものがござります」と村松が平蔵にニンマリ笑顔で告げた。
 「えっ おおおっ おかしら?    あの盗賊改のお頭様・・・・・」
竹造の指先が小刻みに震えた。
「猫どのが薦めるとならば、さぞかしキモの入ったしろものであろうな?」
「残念! 外れでござります」としてやったりと村松忠之進。
「おっ そいつは残念 当たれば 後日何処かで馳走してやろうと思うたに、へへへへっ」
 「アッアッアッ  それは又 先におっしゃってくだされば・・・・・・」と村松忠之進はうらめしげに平蔵を見上げる。
 「まぁ良いではないか ななっ!猫どの」
 「ウウ~~~~ン、少々無念にござります」
 「ところでそいつは又どのようなものだえ?」
「はい、何でも うるち米を柔らかめに焚き上げ、冷めぬうちに潰しまする。
幅4分ほどの平たい竹串に草履型に練りつけまして、これを素焼きに致し、クルミやゴマ、エゴマなどを加え、酒、味醂、赤味噌にきび砂糖、刺し身のたまりを取り入れ、生姜少々を摺りこんで練り合わせたものを塗りつけて炙ります」
「おいおい猫どの 講釈を聞いただけで すでによだれも出て来おったぜ。
で、そいつはまだ出来ぬのかえ竹造」平蔵は揉み手をしながら、かまどの方に退いている竹造に声をかける。
 「へ へへっ!」なぜか先程とは少し応えが違っている。
 「いや 何な 俺はご覧のとおりあっちの方はいかんせん駄目だがな、こっちの方はまだまだ達者ゆえなぁ」と箸で掻き込む仕草を見せた。
 「おかしら しんごろうならば同心部屋の炉端に用意してござります」と村松忠之進がホクホク顔で平蔵の反応を伺う。
 「しんごろうとな? そりゃぁ一体ぇどんなものだえ?」
 「はい それは見てのお楽しみと申しますように・・・・・」村松は平蔵の反応を確信したため勿体をつける。
「よし!ならばそちらに参るぞ、ああ 参らいでか のう佐嶋 へへへへっ」
こうなったらもう誰も止める手立ては見つからない。
たとえ妻女の久栄であっても・・・・かな?。
 「くだんの同心部屋に囲炉裏が切られてあり、交代努めのために、二十四時間火は絶えず、湯釜は常時茶を飲めるようになっている。
この囲炉裏の周りに竹串が数十本並んでそれはあった。
 「おお こいつだな」すでに平蔵の顔は口元までほころんで、どうにも止まらない風である。
 村松の差し出す皿を片手に味噌だれの艶やかな串を抜き上げ、口に入れる。
「いやぁ~ こりゃぁいかぬ!このような物を俺を抜きにして喰おうとは けしからぬ、けしからぬぞ、おお けしからぬ」平蔵の口元は緩みっぱなしであった。
「ところでのう 佐嶋・・・・・・」
平蔵は急に険しい表情になり「ここだけの話だがな、あの竹造をもう一度洗いなおしてみてくれ、俺とお前だけの話だからな、誰にもけどられないよう他言無用、よいな!」
 「やはり・・・・・・」さすが平蔵が見込んで堀組から借り受け出した傑物である。
日頃から平蔵が見せる問答の様子から何かを感づいた時の癖をすでに読み取っていたのであろう。
いかにも江戸見物といういでたちで愛宕権現傍のヨシズ張りの小屋掛けの中で「ちょいと、触ってごらん」と茶屋女の耳元で囁いた老人がいた。
女が耳を近づけるとあっという間もなく、その老人の指先が女の着物の身八ツ口から滑りこんできて、「あれっ くすぐったい・・・・・・」
女が胸を押さえた時にはすでに老人の手は引きぬかれていた。
「気が向いたら神明様の弁多津へおいで、五ツ頃まで待ってますよ、わしの名は五作じゃ」小声でそういって出て行った。
女がそっと胸元を探ってみると小判が二枚・・・・・
「あれまぁ・・・・・」
これが妙義の團右衛門という上州から信州にかけて、大仕掛けの盗みを働く盗賊である。
この弁多津「冬になると弁多津の(のっぺい汁)が、恋しくなる」と平蔵も言うように、中々の味が自慢のようだ。
男が愛宕権現の総門手前の大鳥居を潜った時、総門を入ってきた年寄りに目が止まった。「おやおや お久しぶりでございますなぁ」と言って小走りに駆け寄った。
この相手は馬蕗(まぶき=ごぼう)の利平治である。
この馬蕗の利平治は相模の彦十とも旧知の仲で、なめ約一筋の男、今は平蔵の密偵の一人。こうして平蔵のもとに妙義の團右衛門のおつとめは平蔵の知るところとなる・・・・
「ではお前が妙義一味に加わって、逐一知らせてくれるのじゃな」
 「はい」
平蔵は密偵の立場を痛いほど判っている。
時には裏切り、売り渡しもする、かつての仲間からは(狗・いぬ)と罵られツバキを吐きかけられる、それでも平蔵のためにと心に刃を飲み込んでの義理。
平蔵は薄闇の役宅の外を見やり、ため息混じりに吐いた。
「苦労なことよのう・・・・」
 「長谷川様・・・・・」利平治はその言葉ひとつで満足であった。
「あっそれからもう一つ、このお役宅に、妙義の一味が潜んでいるのでございますよ」
「まことか!」
平蔵は先程の竹造の様子にカンばたらきが正しかったと確信した。
平蔵痛恨の捕物妙義の團右衛門はここに序章を迎えたばかりであった。

コノシロ寿司

コノシロ寿司

京極備前守の要請で平蔵は丹後の国峯山藩に出向いた。             ころは折しも秋も終わり不二のお山もすでに白い雪を頂いている。長旅には丁度よい季節で、平蔵は道中もゆっくりと愛でながらの日程であった。    寒さを迎えたからといって江戸市中も平穏とはいかない状況下である。   しかし、陰に日向に助力をおしまない京極備前守の頼みといえば、    「お引き受けいたしまする」と、引き受けざるを得ない。              その間江戸を預かる与力同心は、万が一のことがあっては、おかしらに申し訳も立たないと昼夜の警戒も怠りなく、平蔵帰宅の知らせを心待ちにしていた。 菊川町の役宅に御役目を終えて無事帰宅した平蔵を安堵の色で迎えたことは書くまでもあるまい。                              土産といえばこの時代、話ししかあるまいし、また皆もそれが平蔵の楽しんだことを共有することで更に結束を増すことをよく承知していた。     「おかしら!この度の一番はなんでございますか?」           口を切ったのはやはり食いしん坊の忠吾であった。            その魂胆を読み取って「忠吾 残念だがてぇしたものはなかった、何しろ相手は砂、歩くたびにキュウキュウと鳴くばかりで、まるでお前ぇの腹の虫。 「おおおおおかしら……それはまた皆の前であんまりではございませぬか」 平蔵の予想もしなかった反撃にしどろもどろ。              「まぁ見聞を広めるということはなにかの役に立つこともあろう、それは俺が一番良く存じておる。網野町の鳴き砂と言うてな海べりの砂浜を歩くと不思議なことにキュキュと鳴る、こんな所で斬り合いにでもなったらお前ぇどうにもならねぇぜ、少しの動きも悟らせちまう、最もこっちもご同様だがな、おそらくは一呼吸の間が雌雄を決めちまうであろう。              さすが見切りを得意とする平蔵、その僅かな動きが勝敗を分けることを詰めかけた与力・同心に諭す。                       「おかしら、丹後と申せば(天橋立)」                「おお、何しろ天女様のお出ましになったところだ、ナ ご利益でも戴こうかと、そいつも立ち寄ったぜ。                      酒造りの妙手だった天女さまはな、助けられた夫婦に酒造りを教えて分限者にしたとよ、ところが其の夫婦は欲張りでな、天女様を追い出しちまうんだわさ。                                 可哀想にこの世にとどまったところが豊受大神として 今は祀られておる。 まぁこれが丹後の羽衣伝説だなぁ。それよりもな、お勤めで参った峰山町、ここがまた何と魚の旨いところよ。                    なかでもな…… ハイハイと身を乗り出したのはご推察通り忠吾と猫どの。「おいおい そう身を乗り出されちゃぁ話が辛ぇ、何しろ敵は城を食っちまうと言う、いやぁ恐ろしい奴……」                   「ええっ 城を食べてしまうので!」                  ふたりとも仰天である。                         「おお 知らなんだかぇ、丹後はコノシロ寿司が名物、だがな この魚出世魚と申してな、しんこ・コハダ・ナカズミ・コノシロと名を変える。     丹後でもこの魚は武家は食わぬそうな」                「ええっ ではいかにに出世魚であっても侍は食べてはいかぬのでございますか?」                                と忠吾                                「おお 良い所を突いてくるのぅ、なぜかと申さば」             「この城を喰う、つまり城を乗っ取るということに通ずるからと聞き及びまするが」                               「いやぁ さすがに猫どの、食い物にかけては造詣が深うて、この平蔵も歯が立たぬわ、わはははは。その通りよ、シンコの酢物も頂いたが、コノシロはな、江戸城を開いた太田道灌殿が江ノ島の弁財天に参詣した帰り道、船にコノシロが飛び込んできたのを見て取って、(この城が手に入る吉兆じゃ)と捉えて、江戸城を開いたそうじゃ」                    「だから城を喰うと言われたのでござりますな」と珍しく食には疎い佐嶋が思わず口を挟んだ。                          「さすが切れ者の佐嶋、そのとおりよ、だがよ いつまでもそんなことは言っちゃぁおれねえのが世の常、旨ぇ物は美味ぇ、で 俺は食っちまった、あはははははは。                              このコノシロには面白ぇ話がおまけにあってな、其の昔、常陸国下野に美しいおなごがおったそうな、それを常陸の国司が嫁にと申し出たそうじゃ、だが 其の娘には好いた男がいた。そこでその親御は(娘は病で死にました)と届けて、使者のまえで火葬にしたのじゃ。                    其の時棺桶に入れたのがツナシという魚で、焼くと人が焦げたような臭がするそうな、其のために使者は娘が本当に死んだと思い国へ帰ったと言うわけさ。それからは身代わりになったツナシをコノシロ(子の代)と呼ぶようになったそうじゃ」                             「なるほど 物にはそれぞれ何らかの因果があるものでございますな」  「うむ だからな 悪事を重ねればいずれは、俺達盗賊改のお縄にかかるってことよ、因果応報と申すではないか、のう佐嶋、釈迦はな、物事原因だけでは結果は生じないと説いておる、そこに要因が加わると因縁和合と申して、結果が生ずる。一度の罪が悪だけではない、繰り返すことがすなわち悪と言うことよ。善もまた然り、これを行ってもそれを鼻にかけ、他を軽蔑したりしておれば、それは善因楽果と申すものになる。                 まこと 難しきは世の中じゃ、良いことを行うだけでは片手落ちじゃと言うことよ。我らとて、地獄・餓鬼・畜生・修羅・人・天の六道を ぐるぐる回って生まれ変わる、これすなわち輪廻転生と申すそうな。           人間という生きものは、悪いことをしながら善いこともするし、人にきらわれることをしながら、いつもいつも人に好かれたいとおもっている。墓火の秀五郎のせりふだがな、奴は因果が悪かったんだろうぜ」          「所で御頭 それで終わられますとこの村松忠之進、いささか消化不良でござります。そのコノシロ寿司のこさえ方を、まさかお聞きにならないままとは想えませぬが」                            「やっ これはうかつ うかつであったぜ猫どの、丹後ではな、腹を割くと腹切りに通ずるゆえ、こいつを背開きにいたし、酢〆にいたし、中に甘く味付けいたした(おから)を詰めてあった。コノシロは鮗と書く通り、冬場が美味い。                                 鱗を落とし、背開きにいたしたコノシロに塩を振り、しばらく寝かすが、この時出てくる水気が再び身に入らぬよう斜めに立てかけるそうな。      ついで、酒で身を洗い、水気を切る。浸け酢は酢・さけ・塩・砂糖・昆布で作っておき、これに浸けて半日置くと小骨も柔らかくなり、程々に味が回る。 オカラは人参・ごぼう・ネギを細く切り炒める、そこへオカラを混ぜ込み油を多めに入れて更に炒める。                       全体に油が回った処で、油揚げの細切りを入れてカツオの出汁をひたひたに注ぐ。これに薄口醤油・味醂・砂糖で甘みを効かせて、ゆっくりと出し汁が飛ぶまで煮合わせる。この頃合いがキモじゃそうな。               仕上げにネギや三つ葉などを細切れにして混ぜ込み、コノシロを背開きにした状態で中に詰める。こうして一日寝かせて味の回るのを待つ。       野菜を入れるのは好みだそうだが、俺は賑やかなのが好みだからなぁ。   まぁ質素なものをよく工夫して、うまいものに仕上げる、こいつぁ中々どうして、人を束ねるにも役立つことよ、のう佐嶋……いつもお前ぇたちには苦労をかけておる、ありがとうよ」

ここは本所菊川町火付盗賊改方長谷川平蔵の役宅
夏場の暑気を少しでも和らげようと、妻女久栄が同心部屋の軒に下げた釣り忍が翠の葉を精一杯伸ばし、時折の風にゆらゆらと揺れ、風鈴の音が軽やかに流れている。
そこには珍しく非番をこの同心部屋で潰している木村忠吾がいた。
庭から流れ込む微風は涼しいと言うには程遠く、バタバタと扇を揺らしながら忠吾は暇にあかして鼻毛を抜いている。
「ねぇ村松様、このように暑い日はお役宅のほうが涼しいかと思い参りましたが、何処も同じ、あ~ぁ暑うござりますなぁ、私は汗かきゆえ、そのぅこう 股ぐらも汗をかきましてたまりませぬ」

遠慮もなく前をはだけた股ぐらに風をバタバタ送りながら憮然としている。
「忠吾、その暑いさなかを、わしはこうして皆のためにゆうげの支度をと朝からかまどの番をしながら立ち働いておる、文句を言うではない。
御頭はこの暑いさなかにも市中見廻りにお出かけなさっておられる、それに引き換えお前はどうじゃ!役宅でただゴロゴロ寝転がってグタグタ文句を言うておるだけではないか」
「お言葉がですが村松様、本日はこの木村忠吾非番にていかように過ごそうとも勝手気ままでございます」

少々村松の言葉が気に食わない様子。
「だがな 忠吾!おかしらはいつが非番じゃ?お頭が(本日は非番じゃ)と 仰せられたことがあろうか?」
「それは……」
「であろう、御頭は我らには何も申されず、日々お役に励まれ、下々のものの暮らし向きにまでお心を痛めておられる、そこでわしはせめてもの気持ちで、暑気払いにとべっ甲を作っておるのよ」
「べっ甲でござりますか!それは又いかようなるもので」            食い物とおなごには目のない木村忠吾、聞き逃すはずもない。
「まぁこいつをちょっとつまんでみるがよい」
村松忠之進は何やら妙なものを忠吾に手渡した。
「何でござります?このわけもわからぬ物は」

言いつつ、村松の勧めるままにひとつまみ
(ぶっ!)「これは又何でござります、味も素っ気もないぼそぼそしただけの妙なものでございますなぁ」
「忠吾 それはカンテンともうしてな、海に漂うておるテングサで工夫したるものよ、味も素っ気もないからこそ、こちらの想うように味付けが叶う。  良いカンテンほど味も素っ気もない物よ、そもそもカンテンは京都府伏見の旅館『美濃屋』の主・美濃太郎左衛門が、戸外に捨て置いたトコロテンが日中は融け、夜間には凍結したる物が日を経て乾物になっていた物を発見した。
これにてトコロテンをつくったところ、前よりも美しく海藻臭さも無いものができた。
そこで黄檗山萬福寺を開創した隠元禅師に試食してもらったところ、精進料理に良いと言われ、
隠元は「寒空」や「冬の空」を意味する漢語の寒天に寒晒心太(かんざらしところてん)の意味を込めて、寒天と命名したそうな」
「はぁ~さようでございますか、なれど私は講釈よりも出来上がったものの方に興味をそそられます」
「さもあろう、お前は食い物とおなご以外には特に興味ももたぬからなぁ」
「むむむっ村松様、まるで御頭のようなお言葉、それではこの木村忠吾がまるで御役目をないがしろにしているふうに聞こえまする」
「はぁ~違うておるか?」
「そこまで言われますと少々、とは申せ、御頭もお目こぼしくださっておられます事ゆえ」
「そこよ、お前がその辺りから盗人のねたを拾うてくることもある故、御頭らも我らもあまり小言は申さぬであろう」
「確かに……」
「このカンテンはな、伊豆のものが上等と言われておる。
採取したるテングサを砂浜にひろげ、ときおり淡水を注ぎて十数日ほど干しいたさば、薄黄色のさらしテングサとなる。
貝殻、砂その他を取り除いたあとこれを水に浸し、柔らかくしたものを水車でつき、流水にさらして塩分、色素を除く。
テングサのみではあまりに硬すぎるのと、テングサが高価なため同じような海藻を配合するのだがな、これが肝となる、普通には2:8とか4分6と申すそうな。
熱湯にテングサを入れ、酢酸少量を加え、2刻半煮出す。
これを濾して上澄みの1番を取り、絞り汁にこれを混ぜ器に移して固まらせし物がトコロテンとなる。
角カンテンはこれを1寸5分の太さに切り分け、高さ1間ほどの防風壁を設けて棚を作り、そこへむしろを敷いて2晩かけて凍結させる。
これが一晩だと変質いたし、数日過ぎるとこれまた腐敗いたして使い物にならぬ。
ここまで出来たものを陽に当て、氷結いたした氷を溶かし水分を取り除き、更に数日晒して出来上がる、誠に手間暇のかかる奴じゃ」と忠吾をちらりと見るが……
「村松様の講釈を聞いておるだけでもうこの木村忠吾意欲を削がれます」
「お前は何をやっても続かぬからのう」
「あっ それは何かの間違いでござります、私めはそのように申されますことにトンとおぼえがござりません」
「まぁよいよい 御頭はそれも解った上でお前を使ぅてくださるのだからな」
「さようでございますか?私はいつも御頭が市中見廻りのおりには(忠吾忠吾)とお引き回し下さるものですから、お気に入られておるものと想うておりました。
先日も(忠吾ついて参れ)と仰せられて、谷中に……うふふふふふっ」
「やれやれ、お前には叶わぬ、親の心子知らずとはよくぞ申したものよ」  村松忠之進半ばあきれ返っている。
夕刻平蔵は役宅に戻ってきた。
「御頭、お疲れ様でござりました。
本日も日差しが高うございまして、さぞやお疲れの事と存じます、そこで暑気払いにと」
「おお、さすが猫どの、そこまで気を使ってくれておるか、いやすまぬ」
平蔵は村松の気遣いを労いながらも                  「所で猫どの、その暑気払いをこう……なんだ!早いとこ食いてぇものだなぁ ええっ!本日の献立は何だえ?」
「はい、トコロテンの摺り胡麻和えに、べっ甲、食後にカンテンのわらび餅を用意いたしております」                        甘いものにも目のない平蔵の痒いところに手の届く村松の気遣いを平蔵はよく心得ている。 
「へへへぇ、カンテンにトコロテンかえ、こいつぁひと風呂浴びてさっぱりした後の1杯ぇが、又楽しみだわい、早速ひと風呂浴びてまいろう」     平蔵、そそくさと湯殿に消えた。
しばらくして平蔵が部屋に御内儀の久栄ともどもくつろいでいるところへ、村松忠之進、いそいそと酒肴を運ぶ。
「おお久栄、来たぞ来たぞ、猫どのの心尽くしの暑気払いじゃ。
うむ どれどれ……う~ん 深水にて冷えたトコロテンにさっぱりとした酸味、これに柚子胡椒のピリリと辛い旨味がからみ、ごま油と摺りゴマの香りが な~るほどのう、きゅうりの歯ざわりと程よく口の中で……う~ん、さすが猫どのじゃ」
「もう一品 こちらはべっ甲と申しまして、富山の名物でございます。
寒天は四半時ほど水に浸し、卵は割りほぐしておきます。
鍋に手でちぎって硬く絞った寒天と水をいれて火にかけ、煮溶かしましたる物に出し汁・砂糖・醤油・塩少々を加え、火を止めてから卵を糸が引くように流し込み、ぬらした型に流して冷やし固めまする」。
「それがこいつだな!」
平蔵はまるで子供のように頬をほころばせて次のひと椀に箸を伸ばす。
「へへへへぇ こりゃぁまた色目も良いが、味も格別。          うむうむ、久栄そなたも早ぅ食してみるが良い、カンテンの適度な歯ざわりがこう 何と申さばよいか、口の中でとろりと溶ける、その時の出汁の何だ、何と申すか うむうむ 打ち水をしたる後の草木の色艶、爽やかさとでも申すかのう、適度の硬さにしょうが汁の風味が涼しさを招いてくれる、誠に甘露じゃなぁ」
「殿様、わたくしはこちらのわらび餅が好物にて、気になりまする」    見れば久栄、深水で冷やされた皿に盛られたわらび餅に食指を伸ばす。
 「はい、奥方様のお好みではないかと存じまして、カンテンにて工夫いたしてみました物、お気に召さばこの村松忠之進整えた甲斐がござります」
「ほうほう、どれどれ。いや、うむ……おお!この黒蜜が曲者じゃなぁ、程よくきな粉とあい混じりおうて、葛とは又違ぅた感触が成る程成る程……さすが猫どのにかかると何の変哲もないカンテンがかように変化いたすとは、いやいや全くこの平蔵兜を脱ぐぜ。
これを至福と申すのであろうなぁ、良き部下を持ち、良き妻女殿に恵まれ、こうして美味きものにも恵まれる、のう久栄! そう想わぬかえ」      平蔵はしみじみと今のこのひとときが愛おしく想えてならなかった。
月は満々とみちて空を彩り、隅々まで晴れわたって碧々と清らかに拡がっていた。
(チリン)と釣忍が鳴った……
「夜風か……この静けさと穏やかさがいつまでも続けばよいが」、
ポツリと平蔵は箸を置いて漏らした。

ねずみ大根

正月四日の客
本所枕橋(源兵衛橋)北詰に(さなだや)という小さな店がある。
近くには松平越前や水戸藩・細川若狭・松平周防の下屋敷があり、大川をはさんで対岸の花川戸あたりの町並みが見え、その向こうあたりには浅草観音や伝法院の大屋根が遠くに見える。
 「雪でも降ろうものなら(さなだや)の窓越しに眺める景色はいやぁこりゃぁたまらん」とこの日を目指してやってくる客もいるほどだ。
この店の主(おこう)はかつて平蔵の父宣雄の代に本所菊川町役宅の少し先三の橋通り入江町に居宅があった。
平蔵がまだ入江町の銕三郎などと言われ、相模の彦十などと放蕩無頼を重ねて父親を悩ませていた頃の話だ。
おこうは平蔵に六歳の頃両親を盗賊によって殺害された記憶があることを話していた。
そのため、平蔵は正月四日はおこうの両親の命日になるので、この(さなだや)を訪ね、線香をあげることを年明け最初の約束事にしていた。
毎年正月四日には両親の好きだった信州のさなだ蕎麦だけを出していたので、この味を知っている客はこの日だけは避けていた。
この日平蔵は木村忠吾を供に(さなだや)を訪れた。
おこうの爪弾く信州追分の恋唄が、音もなく降り積む雪の静けさにわびしく響く・・・・・
線香を上げた平蔵を待って蕎麦が出された。
亭主の庄兵衛が打つ蕎麦を(さなだそば)と呼んでいる。
「蕎麦は信州木曽の大桑あたりが一番で、諏訪の和田峠あたりの物も、まあまぁでございますが戸隠山、これが一番で、二番はございません。
しかも蕎麦の木がようよう六寸程になったものを使います。
しっかりと挽いた蕎麦につなぎは山芋のみで、これにクルミをすり鉢で摺り下ろし、大根をおろした絞り汁に加えて味噌で味付けし、ネギの刻みのみが薬味とします。
このタレに蕎麦をちょっぴり付けて食べるのでございます。
大根は練馬辺りの白くてぶくぶく太った物は水っぽくていけません。
なんといっても筑摩の姨捨山あたりの痩せ土に、いじけず耐えてやっとの思いで育ったせいぜい五寸程でネズミくらいの太さのものに限ります。
これをゆっくり力を入れて摺り下ろしますが、皮付きのまま尻尾の方から降ろさないと辛味が薄くなってしまいます。
それも腹の立つほど目一杯すらないと下りないほどに硬いものが一番でございます。
おろしたやつを絞りますと、しずくがポタリと落ちるほどの物で、これはのりがあると申します。
そこが旨いし、めっぽう辛いのです。
入れるネギも痩せ土に出来た信州の若槻のものが最上でございますよ。
庄兵衛の長い講釈を雪景色を見ながら忠吾はつまらなさそうに聞き流していた。
「では早速だが頂くとしようか……」
平蔵が箸を取るのを待ちかねて忠吾が蕎麦をはさみ、ネギの味噌だれの入った大根おろしにつけて一口……
眼ン玉をひんむいて「むむむむむむむっ!!!!」
顔は真っ赤である。
平蔵はそれをさも美味そうに向かいの雪に煙る浅草寺の大屋根が鉛色に沈んでゆくのを眺めている。
ゆっくりと思い入れの深い蕎麦を食べ終えて(さなだや)を辞した平蔵は、
 「忠吾!真田蕎麦はいかがであった?」                    いたずら小僧のような目で問うた。
「御頭も物好きな、あのように目の玉から火の出るような辛いばかりの蕎麦のどこがお好きなので御ざります」と、呆れ顔で尋ねた。
「忠吾!人はな、甘いも辛いも知り尽くしてもなお知れぬものが心の奥底に棲んでいるものよ、お前ぇにとっては辛ぇだけの蕎麦であろう、だがなぁそれよりもなおつれぇ思いをそこに持ってあのおこうは思い出の中に生きておるのよ。
おこうの爪弾く信州追分がほそぼそと流れて消えた。

木の芽立ち
花の盛りは短くてと、歌の文句じゃないが桜も色艶やかに若葉が芽吹き、季節(とき)の終わりを告げる頃、平蔵は風邪をこじらせ床に臥せっていた。
妻女の久栄が障子を開けて                          「殿様 もう桜も散り、翠がほれあのように輝いております」                と、本所菊川町の役宅の庭を指す。
遠くでまだ未熟なうぐいすの鳴き声が平蔵の心を癒してくれる。
「うむ うぐいすの声か……幼いが、なんと生きの良いことよ、俺もいつまでもこの姿では いやいかぬな、今日はひとつ床上げでもして、久しぶりにお天道さまを浴びようか」                                     柔らかな日差しの振り込む縁側に座り頭に手をやった。
月代もひげも手入れをしなかったものだから、伸び放題。
鏡を持ってみせる久栄に                                      「どうだい、こうなっても俺の男前は変わらねぇだろう」                     とうそぶく。
「まぁ、嫌でございますよ、すっかりお老けになられたようで」                       半ば呆れたふうに久栄はたしなめるが
「しばらくこのままでいよう」                         と気にも留めない様子である。
「ちょっと出かけてくる」                           平蔵はそう言って、着古した木綿の袷に安物の赤いわしを一本落としこんで、破れ傘をかぶって市中見廻りに出かけた。
「殿様、まだそのようなお体では」                       と気遣う妻女に
「安ずるな 安ずるな」                            平蔵、声を後に役宅の門をくぐった。
永代橋を渡り一の鳥居から富ケ岡八幡を過ぎ三十三間堂の北門きわの茶店(みなとや)に入った。
谷中事件以来、お松恋しさの忠吾の気持ちを、御役目一本に向けようと平蔵が忠吾の市中見廻りの担当部所をこの深川に変えたのであるが、いまや食い気の忠吾復活でしかなかった。
「お頭!三十三間堂の北口ツメにある(みなとや)の田楽は美味しゅうござります、しかもこれがまた安いのが何よりでございます」                  と顔をほころばせ、うれしそうに報告したのを思い出したからである。
「酒と それから味噌田楽を頼む」
この辺りは平蔵が入船町の銕とよばれて過ごした無頼時代のいわば手の中、二十数年前とはいえ、街の様子はさほど変わってはいない。
(変わったのは俺の生き様と人の顔ぐれぇのもんだなぁ)と盃を空けながら、久しぶりに五臓六腑にしみわたる心地よさと、忠吾が薦めたこの味噌田楽、(ほぉ こいつは美味い!木の芽の薫りがなんとも気持ちを清々しくしてくれる、うさぎめ あ奴のとりえは盗人をみつけるよりも美味ぇ食い物を見つけるほうが得意と見えるな)妙な事に感心していた平蔵の耳に店中の騒ぎ声が聞こえてきた。
後をつけると、町人夫婦を入松町の掘川べり草地に連れ込んだ。
後をつけた平蔵                                「てめえら 悪ふざけもいいかげんにしろ。相手がほしいなら俺がなってやるぜ」  と啖呵を切ったものだ。
いかに病み上がりとはいえ、平蔵の腕に叶うものではなかった、あっという間に素手で叩き伏せられ、堀川に叩きこまれ、ほうほうの体で逃げていった。
そんな事件であった。
その後平蔵は再び永代橋を戻り、深川から表茅場町を通り八丁堀北側を抜け、弾正橋をわたって京橋たもとにかかったとき、                     「そつじながら……」                             と声をかけてきたのが高木軍兵衛であった。
お熊ばあさんから聞いていた高木軍兵衛に頼み込まれて連れ込まれたのが、京橋東詰を北へ上った大根河岸にある(万七)という小料理屋。
後日馬越の仁兵衛一味の一網打尽の糸がここから芽生えた。
あの時の兎の吸い物は中々のものだった。特に冬場の兎は脂も乗って、ネギと生姜の出し汁が絶妙な味に仕上がっており、平蔵の舌を驚かせた。
他所(ほか)で食したものを「美味い」と聞かされるのが一番自尊心を傷つけられる村松忠之進、
「そもそもうさぎの吸い物は徳川家の年頭に出されるしきたりがござりまして、器の中に兎肉を二切れ入れた上に味噌をかける、それだけのものでござります。
ねぎは葱(き)と申しまして、特に匂いの強いものを然様に呼んだようで、御所のおなごはこれを(ひともじ)と呼び、ニラを(ふたもじ)と呼んで粋がっていたようで、二文字とは古来ニラを彌良(みら)と読んでいたそうにございます。
「さすがに猫どの おそれ入谷の鬼子母神……深ぇなぁ……」
と 平蔵の持ち上げに、少々心持ちが良くなったのか忠之進、
「昔より、葱(き)の根の部分を食しますので根葱(ねぎ)と呼びまする」     と、おのが知識を披露に及んだものであった。
そこへ棒手振りの喜助が                           「松村の旦那!あおやぎはいかがでやしょう?」                   とあさりを持ち込んだ。
「おっ あさりかえ、そいつは丁度良い、ああ 持って参れ」              と勝手に決める。
松村としては本日のおかしらの体調なども勘案しながら選ぶ、いわば聖域にも当たるところへ、平蔵が勝手に決めたことに少々不満が沸き起こった。
「のう 猫どの、あさりも手に入ぇったところだし、本日は深川飯を作ってはくれぬか?、それがさ、いやぁ中々美味いのだよ猫どの、昔、親父殿に勘当されて三日三晩飲まず食わずで屋敷の周りをうろついてな、やっとの事で門番のおふくろ様に葱とあさりの深川飯を振る舞ってもろうた、その時の味噌の美味さと言ったら、もう、あ~こうして思い出すだけでもよだれが垂れる」
最後の言葉に忠之進の心はいたく傷ついた様子で、
「しかし、御頭、深川飯は醤油味でなければいけませぬ」             と異を唱えた。
懐かしい味を否定された平蔵 ムッとして、
「何を言うんでい、深川飯は味噌に限る」
「いーえ、いかに御頭がなんと申されましょうとも深川飯は醤油でござります」   と一歩も引かない構えである。
「そんなに気取ったって美味かぁねえんだよ、こいつは味噌に限るんだよ」     と、再び平蔵は反論するも
「いいえ、これだけは曲げるわけには参りませぬ、
あおやぎを綺麗に泥を吐かせて煮立て、煮汁を作ります。
身を取り出しまして、長ネギや油揚げと醤油で味付けして煮汁で煮ます。
この煮汁を加えて飯を煮て、炊きあがったらこれらを入れてかき混ぜます。     これが本来の深川飯でござります。おかしらの食されましたものはいわばあおやぎの味噌汁のぶっかけ飯に相違ござりませぬ」                     とがんとして聞き入れない。
腹もすいてきたし、この押し問答にさすがの平蔵も弱り果てて          「猫どの、その何だ、猫どののお薦めの深川飯を作ってはくれぬかえ?」      と矛を収める。
「ならば是も否ござりませぬ、早速用意を致します」               と村松忠之進そそくさと支度にかかった。
しばらくして村松が捧げてきた、猫どのお薦めのあさり飯、
「やぁこいつは美味ぇ 旨ぇぜ猫どの、さすがお前ぇの舌にはかなわぬのう」    
平蔵は村松の顔を立てる。
添えられた土筆(つくし)の煮浸しは刻み三つ葉の噛むとにじみ出るハツラツとした薫りが平蔵の鼻と舌をくすぐる。
もう一皿はうこぎの胡麻和えである。
木の芽時を過ぎ、身も心も乱れがちなこの時にあわせて平蔵の気持ちを楽しませようとしている村松忠之進の気持ちが痛いほど平蔵に伝わってきた。
 「……うまい 美味いぞこの土筆もこしあぶらも……こう 春の訪れが地の底、山里のふところから湧き出るようじゃぁ……美味いなぁ」                これは平蔵の本心であった。
(俺が一人の命ではない、こうして陰でも身を案じてくれる一人一人の支えあったればこそ、俺は御役目に全力をかたむけることができる、真に有り難い……)平蔵は心の中で村松忠之進に手を合わせた。
もうこれ以後は深川飯問答は出ることはなかった。
平蔵は知っていた、村松が譲らなかった醤油味の深川飯は、漁師たちが採れたてで手近なこのあおやぎを飯と一緒に炊きこんだ物に味噌を溶かしこんで作ったものを呼び、後に畑や野良仕事に汁が出ないように工夫されたのが醤油で味をつけた言うなれば現代の炊き込み飯で、これを江戸では普通に深川飯と呼ばれていることを。
外はまばゆいばかりの翠が、待ち望んだこの時を抑えられないほどに満ち満ちた気を膨らましてすがしい空を見上げているようであった。

土用のうなぎ
「御頭、夕餉の支度をと存じますが」                         菊川町の役宅で探索の報告書を読んでいた平蔵に、同心の村松忠之進が夕餉の心配をしてきた。
「これは猫どの、先程よりこう……えもたまらぬ香りが漂うて、腹の虫が騒ぎ始めたぜ」
「あっ、やはりここまで流れてまいりましたか。本日は土用にて鰻屋の吉松が浦和より寄せましたる物を持ち込みましたので、ここはぜひ御頭にとこの村松忠之進、腕によりをかけましてございます」
「ふむ、やはり鰻は浦和が名物よのう」
「無論でござります。そもそも土用の鰻は平賀源内とか申す者が鰻屋に泣きつかれて(本日土用 鰻の日」と書きし張り紙が元とか」
「平賀源内と申さば、田沼様お気に入りのお方とか」
「さすがお頭!  そこまでご存知で」
「なぁにちょいと小耳に挟んだまでの事よ、で、どうしたい えっ?」
「はい、元々は土用にウの字の付く物を食しますと夏負けしないという風習もござりまして。
梅干しやウリなども食しております、しかしこれまで夏場はあっさりとした物が好まれておりました。
この(土用丑の日)と、鰻屋が掲げてから、こってりしたものも食されるようになりまして。
中でも油も多く下世話に外道物と称しまするが、鰻は少々手間を掛けて調理致さば、これ中々に旨く精も付きまする」
「なぁるほどなぁ、やはり料理も手をかけねば美味ぇものも出来ねえか。
いや、人間もな、手間がかかる奴と、手間をかける奴とがおる。手間がかかるのはこいつはもういけねぇ、だがな 手間ひまかけてでも……そんな奴は先が楽しみなものよ」
 「さようでござりまするとも。この鰻もこしらえようで江戸前上方と違いまして、上方の鰻は腹を割きますが、江戸ではこれは腹切りに通ずると嫌いまして、江戸前の鰻は背を裂きまする。
包丁も鰻裂きと申します専用の物を用います。これを四半刻程度強火にて蒸しまする。
上方では腹開きのママ白焼き致しまする。また筑前では焼き上げて蒸しまするせいろ蒸しが行われておるようで」
「なるほど、色々とその土地柄があるものよのう」     
「さようで、この焼き加減がキモでござりまして、一度焼きましたる物をどぶろくの熱燗と醤油に数度潜らせた漬け焼きがキモでござります。
醤油は薄口ではのうて、江戸の濃口醤油に味醂、これが肝要にござります」
「さすが猫どの、詳しいのう。いつもながらこの平蔵感服いたしおるぞ」
「いえいえそれ程のものでは御ざりませぬ。これに胃の腑の消化を助けます山椒味噌、これが決め手」
「のぁ猫どの、この鰻には半助(頭の部分)は入ぇっておらぬが?」
「御頭!何とそこまでご存知とは村松忠之進恐れいりまする」
「なぁに、てぇしたことじゃァねえよ、俺のは単なる耳学問、猫どの程の深ぇ知識たぁ雲泥の差」
「めっそうもござりません、あっ 実を申さばこのタレ……」 
「日本橋葺屋町の大野屋ではないかえ?」
「はぁっ、何とそこまで……推察の通り大野屋より求めて参りましたもの。
何しろ代々受け継いだタレは鰻の身や汁、油がタレに混ざりて、言うに言えぬコクが生じまする、これを秘伝と致し、門外不出と伺ぅておりまする」
「さもあらんさもあらん、それが伝統と言うものよ。武士の習わしも左様であらばこれほどの荒んだ世の中にならずに済んでいたであろうに」               平蔵は、田沼失脚以来武士の一分が廃れている様を嘆いた。
「しかし良くそまでご存知で、御頭の耳は地獄耳と同心仲間よりも聞き及んでおります物の、村松忠之進兜を脱ぎまする」
そこへ妻女久栄                                  「殿様 香の物にござります」                         と、ひまつぶしを持って入った。  
「おぅ久栄か、中々良く気がつくのう。鰻は時がかかるゆえ、急がせるのは愚の骨頂、香の物に茶で時を過ごすのが良いと申すからのう」
で、その向う付けは何だえ?どれどれ……ややっ!これはまたなんと美味い。うん、この何だなぁ干し大根の甘みにしじみの歯ごたえ、噛めばじわりと酢の旨さに柚香の薫りがまた供を添える。うむうむ、いやこれはなかなか逸品でござるぞ猫どの!」
「はい!過日殿様が秋山先生のお供で大野屋とやらへ出向かれ、その折のお話を伺ぅておりましたので」
「あっ!然様でござりましたか、然様で」                    村松忠之進いささかへそを曲げた様子に、
「いや面目ない!猫どのにそこまで言われると、ちょいと後が続かねぇなぁ。のう久栄」                                      平蔵はツケを久栄に向けたものの、
「存じませぬ、のう村松殿。ご自分一人が良い目をなされて、私共には話ばかり」              久栄もこのときとばかり村松と共同歩調。
「然様でござります、この私めの鰻ではお口汚しに御ざりまするか」
「これはうかつであった、済まぬ済まぬ、そのようなつもりではないのじゃぁ、今度連れて参るによって、今日のところは猫どの手前、のう猫どの」           平蔵は両手を合わせ、久栄の方を拝む。
「御頭、ではどのようなおつもりで御ざりましょうや」                久栄と目を見合わせ村松忠之進。
「村松殿、その腕によりをお掛けなされた鰻、私に食べさせては頂けませぬか」
「それはもう喜んで。この村松忠之進更によりをかけて仕上げまする」
「では早速まかない場に参りましょう、ささっ早ぅ早ぅ」
「とほほ、おい猫どの、久栄ぇ……弱ったなぁ、江戸の敵を長崎で打たれちまったかぁ」

千住 


「千住女郎衆は、碇か綱か、今朝も二はいの船とめた」
とか申すそうじゃのう忠吾、お前ぇの ほれ!これが居った谷中はそちの持ち場であったのう」
「お頭!それはすでに決着が付いております。
今の私めは、御役目第一と日夜駆け回っておりまする」
「まぁそういきり立つな、ますます怪しく想えてくるではないか」
「そそそっそんなぁ」                                      忠吾は平蔵に日頃の行状を見透かされていることが恐ろしかった、が
そんなことでめげる忠吾でないことは、誰もが知っていることで、知らぬは本人ばかりなり。
「ところでのう忠吾、人間というやつ、遊びながら働く生きものさ。善いことを行いつつ、知らぬうちに悪事をやってのける。悪事を働きつつ、知らず知らず善いことを楽しむ。これが人間だわさ
「お頭……」
「覚えておるであろう!網切の甚五郎」
「料亭大村事件でござりますな」
忠吾は思い出しても背筋の凍るような事件を思い出した。
「彼奴をお縄にするきっかけを作ったのが鴛原(おしはら)の九兵衛、
「あの芋酒屋の……」
「ああそうだ、その九兵衛の芋なますは天下一品だぜ」
その話を聞かされましたら、さぞや村松様が嘆かれましょう」
「おおそいつはうかつであった、猫どのは別格じゃ……と 言うことにしておけ」
「ははっ、おおせのとおりに。ところでお頭本日は何処へお供に」         いつもなら一も二もなく金魚のフンよろしくくっつく忠吾であったが、(どうも、今日のお頭のこの誘い方は賦に落ちない)
「なぁに(いせや)にちょいとな」                       平蔵も、その空気を察知したのか、渋扇をゆらしながら歩き出す。
「いせやと申しますと板尻の吉右衛門……」
「ふむその通りよ、この度の九兵衛の働きでわしも九死に一生を得た。
そこで「いせや」の親爺と俺とで九兵衛に店を出さすことになった。
本日はお前ぇにそのお披露目というわけさ。芋酒はな、皮を剥いた里芋を小さく切り、これを熱湯に浸し置き、ぬめりが取れたら引き上げてすり鉢で摺り、ここへ酒を入れる、それを燗にして出す。
こいつは精がつくらしいぜ忠吾、何しろお前ぇ芋酒をやったら、一晩で五人や六人の夜鷹を乗りこなすなんざぁ理由もねぇとよ、あはははは」              九兵衛から聞いた話は、いたく忠吾の耳に心地よく響き、お松のぽちゃぽちゃっとした胸乳(むなじ)を思い出し、(おっとっと、危ない危ない顔の崩れをお頭に見つかったら、また足止めされる、それだけは避けねばならぬ)と独り合点をして用心の膜を張りながらも、                                  「おおっ お頭!それはまことで!」                           と眼がやにさがってしまっている。
「おいおい忠吾、眼の色が変ぇっているぜぇ、まぁまぁ落ち着け忠吾、で、お前ぇにもそのイモナマスを食わせてやろうと思うてな」
平蔵はニヤニヤしながら忠吾を振り返る。
「いもなますで、ございますかぁ、私めは出来ますれば芋酒のほうが、このぉ」
「相変わらずお前ぇは はしかい奴だのう!わはははは」
「親父っつあん、食いしん坊の忠吾を連れてまいったぜ」
「これは長谷川様」
「うむ、こいつに芋酒を出してやってくれ、俺は芋ナマスでよいぞ」
 「へっ?木村さまにおよろしんで?」                     と平蔵の狙いを嗅ぎとった様子で、
「承知いたしやした、早速お持ちいたします」                  九兵衛、奥に引っ込んだ。
「お頭ぁ!!」 
「おうおう気にするな、だがな、あとは知らんぞ。なぁ親父っつあん、ふわはははは」
「へぇ、木村様、まぁ出来るまでの間、芋ナマスでも食いながら飲んで食っておくんなせい、その内、今夜はもう岡場所へなと繰り込んで、白粉くせぇのでも抱いてみるかぁ、なんて勢いも出てねぇ!へへへへ」                     九兵衛は意味深なしたり顔で平蔵の顔を見る。 
そうとも知らず                                         「おおぅ、そうなるか!」                           木村同心、もう満面の笑みと来たもんだ。
「そうさなぁ、最も役に立つか立たねぇか、そいつはお慰みってぇもんだよなぁ」
「へへへへへ、最もでぇ、あははははは」
「ククククッソぉ、いけ好かぬ親爺だなぁ。
クソ、おかわりもう一杯」
忠吾は九兵衛にまでからかわれて、半分ヤケ気味に盃を空ける。
しかし実にこれがまた美味いのである。
「旨ぇだろう、そいつが腰を抜かすから俺はやらんのだよ忠吾わはははは」
「父っつあん、おもんは寄るけぇ?」
「へい 時折来やす。
(あのお侍さんどうしていなさるかねぇ)って、長谷川様の事を……」
「さようか、人は皆一枚脱げば、何も変わっちゃぁいねえさ、俺もお前ぇも なぁ親父っつあん」
空けた盃を九兵衛のほうに手渡しながら、まぁお前ぇも一杯ぇやりな、
「長谷川様……長谷川様は、やはり恐ろしいお方でございますなぁ」
九兵衛は平蔵のどこまでも人の心のなかに染み入るぬくもりが、辛いほどの嬉しさであった。

我が家では河鹿と一緒におなじみのヤモリ君。尻尾が短いからオスだとひと目でわかる。小さな蛾が網戸に止まるのを待ち構え、ヨタヨタソロリソロリと近づく。無論足音なぞ微動だに感じさせない忍者もどきの動きである。                       僅かな振動でも蛾は察知するからである。それでも大きすぎた獲物を口に入れた折なぞは、喉につまらせるのか、はたまた吐き出すにはちょい惜しい!!てな気持ちが伝わる雰囲気がこれまた面白くい観察できる。                     この度は見事にダイレクトキャッチでパクリとひと飲み!!まぁカメレオン並みに長い舌?でパクリは怖ぁ~……でもまぁ彼も生活かかってっから必死らこいてるんだなぁ。そういえば花の修行時代、京都の高瀬川の宿屋で、毎夜天井からぽたりと落ちてきた思い出が蘇る。窓を開ければ下は高瀬川、向かいは不夜城の先斗町……いい時代だったなぁ。

あんこ寿司


 「誰かある村松を呼んでくれぬか」
平蔵は本所菊川町の役宅で執務(しらべ)をこなしていた。
「御頭、村松様でござりますか、かしこまりました」
と木村忠吾が目ざとくまかりでる。
その日は朝からお上の呼び出しがあり、その後本所三つ目菊川町の平蔵が役宅に戻って来たものであった。
「御頭!お呼びで」                              同心の村松忠之進が控えてきた。
「おお猫どの、呼び立ててすまぬ。
先ほど毛利藩の上屋敷で馳走になり、料理自慢の話に花が咲いてのう、つい猫どのの話を致すと、いや中々あちらも食い物に思い入れのある御仁(おひと)でな、で、猫どのにと土産を持たせてくれたのじゃぁ」
「それはまた恐縮至極で、何でござりましょうや」
食の話となると御役目そっちのけの村松忠之進、すでに眼尻にしわを寄せて手もみしながら顔をほころばせている。
「何でもあんこ寿司とか何とか申して居ったなぁ」
「あんこでござりますか、むふふふ」
と傍で甘いものと女子(おなご)には眼のない木村忠吾、
「御頭!この木村忠吾、あんこにかけましては中々にうるそうござります」
と膝を乗り出してきた。
「そうさなぁ、お前ぇはアンコだけではのうて、食い物であらば、喩(たと)え醜女(しこめ)でも食うとか誰ぞが申しておったぜ」
日頃の忠吾のお役にかこつけての茶屋通いにちくりと針をさす。
とはいえ、この同心仲間ではあまり遊びに精通?したものも少なく、忠吾の茶屋からの情報が時に大きな犯罪を未然に防いだことも幾つかあり、同心仲間もあまりうるさくは言わない。
まぁそれを良いことに忠吾の茶屋通いもなかなか止みそうもなく、先手組であった親代々の蓄財を、いろは茶屋菱屋のお松に入れあげた経緯(いきさつ)は、瓢箪(ひょうたん)から駒の一件でも見える。
「お頭!それはまたひどい噂にござりまする」
と必死に否定するからまた平蔵のいたずら心を刺激する。
「へぇそうけぇ、火のないところにはなんとかと申すぞ」
平蔵はニヤニヤ忠吾の反応を楽しんでいる様子である。
それは猫じゃらしで猫をからかうその軽妙な駆け引きに似ていようか。
「御頭!それは大きに誤解でござりまする、御頭にそのように想われているとは、この木村忠吾死んだ親に顔向けできませぬ」
と鼻息が荒くなった。
「おい忠吾!そのようにムキになるところが更に怪しいぜ、わはははは」 
「御頭!この木村忠吾お役一筋命がけで日々市中を見廻り、庶民の安全に身をやつしてございます」憤懣(ふんまん)やるかたない勢いに、平蔵もあきれつつ、 
「おいおい忠吾 そこまでにいたせ ななっ!ところで猫どの、如何かのう」
と忠吾が御頭への噛み付くようすを苦々しく眺めていた村松に話を振った。
「御頭、このあんこ寿司は、中身はアンでのうて、切り干し大根やシイタケ、ニンジン、ごぼう、時にこんにゃくにインゲン豆など季節の野菜を細かく切りましたるものを具に使いまする」
「流石(さすが) 猫どの、いや流石じゃのぅ」
と平蔵は舌を巻いた。
「周防岩国は錦)の名物にて、少々甘めの酢飯にそれぞれ家々の味を付け込み、米不足を補ったと聞き及びます。
近頃では、このように金糸卵や華生姜を飾りまする」
「そこまで読めるか、いやはや猫どのの知識も相当のものよなぁ忠吾!」
平蔵は、なおもふてくされている忠吾を見返す。
「どうせ私は喰うことのみに取り柄のある食い意地の張っただけの者にござります、はい!」
忠吾面白くもござりませぬと言わんばかりのむくれ顔
「おいおいとうとう忠吾メを怒らせちまったぜ、あいや 済まぬ済まぬ、悪気はねぇんだ許せよ」
平蔵頭を掻き掻き忠吾をそろりと見やった
「お言葉ですが御頭、すまぬで済めば盗賊改はいりませぬ」                口をへの字の曲げておかんむりの忠吾である。
「だからこうして謝っておるではないか、な!これこの通り、わはははははっ」
「そのワハハハが曲者にござります、私はいつもそのわはははにのせられてござりますゆえ、このたびはそうは行きませぬ」
「いや困った、忠吾がこうまでへそを曲げるとはのう猫どの」
平蔵は鬢(びん)に手をやり村松を見やる。
見かねた村松
「おい忠吾御頭のお言葉を疑う奴が居ろうか」
あきれ果てた眼で忠之進は忠吾を見据えた。
「では、村松様はこの木村忠吾はそこまで酷(ひど)くはないと然様(さよう)に申されますので?」
と執拗に食い下がる
「そこまで念を入れられると、少々わしとて返答に」
村松も窮(きゅう)して平蔵を
「むむむ、くそぉ、やけくそでござります、このあんこ寿司を成敗つかまつります」
忠吾、目の前に拡げられた折り詰めのあんこ寿司を両手に抱えてパクパク食べ始めた。
「おいおい忠吾、これ忠吾や!少しだけでも残してはくれぬか!わしも猫どのも、いまだ食しはおらぬゆえナッ!ナッ忠吾ぉ……おいおい猫どの、忠吾メ一人で食いおったぞ。こいつが真のお飯取りだなぁ猫どの、あはははははは」
「とほほ、私めは講釈のみで、お味の方はいつのことやら……」
村松忠之進一生の不覚であった。

土用のうなぎ


「御頭 夕餉の支度をと存じますが」                      菊川の役宅で探索の報告書を読んでいた平蔵に、同心の村松忠之進が夕餉の心配をしてきた。
「これは猫どの先程よりこう えもたまらぬ香りが漂うて、腹の虫が騒ぎ始めたぜ」
「あっ やはりここまで流れてまいりましたか、本日は土用にて鰻屋の吉松が浦和より寄せましたる物を持ち込みましたので、ここはぜひお頭にとこの村松忠之進腕によりをかけましてございます。」
「ふむ やはりウナギは浦和が名物よのう」
「無論でござります、そもそも土用の鰻は平賀源内とか申す者が鰻屋に泣きつかれて「本日土用 鰻の日」と書きし張り紙が元とか」
「平賀源内と申さば、田沼様お気に入りのお方とか」
「さすがお頭!  そこまでご存知で」
「なぁにちょいと小耳に挟んだまでの事よ、で、どうしたい えっ?」
「はい、元々は土用にウの字の付く物を食しますと夏負けしないという風習もござりまして。
梅干しやウリなども食しております、しかしこれまで夏場はあっさりとした物が好まれておりました。
この(土用丑の日)とうなぎ屋が掲げてから、こってりしたものも食されるようになりまして。
中でも油も多く下世話に外道物と称しまするが、鰻は少々手間を掛けて調理致さばこれ、中々に旨く精も付きまする」
「なぁるほどなぁ、やはり料理も手をかけねば美味ぇものも出来ねえか、
いや 人間もな、手間がかかる奴と、手間をかける奴とがおる、手間がかかるのはこいつはもういけねぇ、だがな 手間ひまかけてでも・・・・・・そんな奴は先が楽しみなものよ」
 「さようでござりまするとも、このうなぎもこしらえようで江戸前と上方とでは違いまして、上方の鰻は腹を割きますが、江戸ではこれは腹切りに通ずると嫌いまして、江戸前の鰻は背を裂きまする。
包丁も鰻裂きと申します専用の物を用います、これを四半刻程度強火にて蒸しまする。
上方では腹開きのママ白焼き致しまする。また筑前では焼き上げて蒸しまするせいろ蒸しが行われておるようで」
「なるほど 色々とその土地柄があるものよのう」     
「さようで、この焼き加減がキモでござりまして、一度焼きましたる物をどぶろくの熱燗と醤油に数度潜らせた漬け焼きがキモでござります。
醤油は薄口ではのうて、江戸の濃口醤油に味醂、これが肝要にござります」
「さすが猫どの、詳しいのう、いつもながらこの平蔵感服いたしおるぞ」
「いえいえそれ程のものでは御ざりませぬ、これに胃の腑の消化を助けます山椒味噌、これが決め手」
「なぁ 猫どの、 この鰻には半助(頭の部分)は入ぇっておらぬが?」
「御頭!何とそこまでご存知とは村松忠之進恐れいりまする」
「なぁに、てぇしたことじゃァねえよ、俺のは単なる耳学問、猫どの程の深ぇ知識たぁ雲泥の差」」
「めっそうもござりません、あっ 実を申さばこのタレ・・・・・・」 
「日本橋葺屋町の大野屋ではないかえ?」
「はぁっ 何とそこまで・・・・・ご推察の通り大野屋より求めて参りましたもの。
何しろ代々受け継いだタレは鰻の身や汁、油がタレに混ざりて、言うに言えぬコクが生じまする、これを秘伝と致し、門外不出と伺ぅておりまする」
「さもあらんさもあらん、それが伝統と言うものよ、武士の習わしも左様であらばこれほどの荒んだ世の中にならずに済んでいたであろうに」               と平蔵は、田沼失脚以来武士の一分が廃れている様を嘆いた。
「しかし良くそまでご存知で、御頭の耳は地獄耳と同心仲間よりも聞き及んでおります物の、村松忠之進兜を脱ぎまする」
そこへ妻女久栄が                               「殿様 香の物にござります」                          とひまつぶしを持って入った。  
「おう 久栄か 中々良く気がつくのう、鰻は時がかかるゆえ、急がせるのは愚の骨頂、香の物に茶で時を過ごすのが良いと申すからのう」
で、 その向う付けは何だえ? どれどれ・・・・・・
「ややっ これはまたなんと美味い うん この何だなぁ干し大根の甘みにしじみの歯ごたえ、噛めばじわりと酢の旨さに柚香の薫りがまた供を添える、うむうむ いやこれはなかなか逸品でござるぞ猫どの!」
「はい! 過日殿様が秋山先生のお供で大野屋とやらへ出向かれ、その折のお話を伺ぅておりましたので」
「あっ! 然様でござりましたか 然様で」                    村松忠之進いささかへそを曲げた様子に、
「いや 面目ない!猫どのにそこまで言われると、ちょいと後が続かねぇなぁ のう久栄」                                      平蔵はツケを久栄に向けたものの、
「存じませぬ のう村松殿、ご自分一人が良い目をなされて、私共には話ばかり」          久栄もこのときとばかり村松と共同歩調。
「左様でござります、この私めの鰻ではお口汚しに御ざりまするか」
「これはうかつであった、済まぬ済まぬ、そのようなつもりではないのじゃぁ、今度連れて参るによって、今日のところは猫どの手前、のう猫どの」               と平蔵は両手を合わせ、久栄の方を拝む。
「御頭、ではどのようなおつもりで御ざりましょうや」                 と久栄と目を見合わせ村松忠之進。
「村松殿、その腕によりをお掛けなされた鰻を私に食べさせては頂けませぬか」
「それはもう 喜んで、この村松忠之進、更によりをかけて仕上げまする」
「では早速まかない場に参りましょう、ささっ早ぅ早ぅ」
「とほほ おい猫どの、久栄ぇ…… 

舌泥棒
この所風邪が長引き、伏せがちの平蔵を案じて大滝の五郎蔵が小包を下げて役宅に平蔵を見舞った。
 「おお 五郎蔵 いやなかなかにこいつがしつこい、こんな風じゃぁ出かけることも許されぬ」 と傍に控える妻女久栄の方を何やら恨めしげにチラ と見る。
「長谷川様 あまりご苦労が多くお体の休まる暇もなかったので、こいつはお天道さまもお見逃しなさるでございましょう、ゆっくりと養生なさるのがよろしいかと」
その言葉を聞きながら平蔵は(お前ぇも気が利かねぇなぁ、俺は出たくてウズウズしていると言うに、それはねぇだろう)と言いたげに五郎蔵を見やる。
わかっているだけに五郎蔵はいたずら心を覗かせて、平蔵に自慢をする。
「いえね 先日本所新辻橋柳原町三丁目そばでちょいと味なものに出くわしやして」
「おい五郎蔵,なんとも勿体つけずに話しちめえ、こっちは毎日白粥で壁壁しておる、おまけに届く話はお上からの見舞いもなしの,いつ復帰致すかの催促ばかり、こいつぁ 不味かろうよ のう妻女どの」
「あら 殿様、それ程に私の作ります粥はまずうござりましたか?それではこれからは村松殿に作っていただかれるがよろしゅうござります」とすねてみせる。
「いや こいつは参った、そのような下心は全くござらぬ のう五郎蔵」と救いの手を向ける。
「はぁそのように申されましても私もどのようにお返事して良いものやら」      とこれまた五郎蔵らしい真面目な返事に、
(面白うないなぁ)と 目でスネる平蔵を見て一同大笑い。
「おい 所でその横においてある小せぇ包は何だぇ」
目ざとく平蔵は五郎蔵が持ち込んだ物に目をつけている。
「へい こいつはその店で包ませました塩辛でございやす」
「何? 塩辛だぁ そいつは良い!早速粥に添えていただこうではないか!な ななっご妻女どの」
「もう 殿様ときたら食べる話になると、こうも代われるものだと呆れまする」と笑いながら昼餉の支度に戻ってゆく。
「五郎蔵 してその店はなんというところだえ?本所といえば俺の手の内、知らぇはずはねぇんだが、はてな?」
「へい それがまだ出来て間もねぇ小さな店で、間口も九尺二間ほどの手狭さですが、親父と娘の二人で商っている居酒屋でございますよ長谷川様」
「ほほぅ それがまたなんでお前ぇの気を引いたんだえ?」持ち前の平蔵の好奇心がムクムクと沸き上がってきた。
「いえね 店の名前がちょいと気に入りやしてね、たずがねの忠助父っつあんではございませんが(舌泥棒)と申しますんで」
「へへっ 舌泥棒かえ、こいつは面白ぇ、まさか忠助とおんなじで元は盗人とか……」
「あっしもそれははじめに想いやしたが、ふたりともまっとうな気質のようで」
「そうか!んで それからどうした」(話を早く進めよ!)と言いたげな平蔵の表情、
「あっしもちょいと引っかかってみようと入りやした。
出てきたものがこの 塩辛、こいつがまた中々に美味い
で、 長谷川様に手土産にと こうして」
「おい それを早く言え 早く どれどれ 見せてみな」
平蔵は待ちきれないように壺に入った包みを開き、そっと指で掻き出し
んんんっ!  美味ぇや これは実に美味い、おい五郎蔵でかした、大手柄だぜ」と上機嫌。
「長谷川様 どっかの大盗人でも捕らえたようなおっしゃりようはこの五郎蔵、いささか恥ずかしゅうございます」
「馬鹿をもうすな、 今の俺にはその位ぇの価値があるぜ、いやでかしたでかした」
そこへ久栄が白粥と卵に香の物を添えて持って入った。
「おお! 早速戴こう、この塩辛を……
うううううううンッ 旨ぇ 旨ぇ!! ゆずの薫りがまた一段と爽やかな気分にさせてくれる、おい 久栄 お前も食してみろ むぅたまらんわ!!」
「おやおや殿様はすっかり元気にお成りのようで、五郎蔵どのかたじけのうござります」
「とととっ とんでもねぇ 奥方様、長谷川さまがお屋敷に引きこもられて、あっしらも心配しておりやす。
何か面白ぇものでもねえかと歩いておりましたら、たまたまぶち当たったまでのこと、さように申されますといささか座るところがございません へい」
五郎蔵はこの平蔵のはしゃぎようにほっと胸をなでおろした。
それから数日後平蔵は床を離れ、全快祝いと称して五郎蔵やおまさなど密偵を伴いこの(舌泥棒)に出陣したのは言うまでもあるまい。
店に入ると十八・九の娘が「おいでなさいませ」と 元気な声で出迎える。
赤い前掛けがなんとも初々しい。
のれん一つ向こうは板場のようで、のれんを分けてその屋の主が顔をのぞかせる。
「いらっしゃいやし」
腰の少々曲がりかけた白髪頭の好々爺である。
五郎蔵が                                         「とっつあん、この御方がめっぽうお前ぇさんの作りなさった(酒盗)がお気に召して、こうして今日は大勢でやって来たってとこよ。急ぐ事ぁねえがまずは酒から出してくれねぇか」
のれんの奥から娘が酒の支度をして座敷に運んできた。
昼前なので客もなく、ゆったりとくつろぎながら、出された酒を平蔵に差し向ける
「全快のお祝いを申しあげやす」                            と五郎蔵がまず盃を上げた。
「おお こいつはすまぬ ありがとうよ、お前ぇたちのお陰でこの長谷川平蔵またもやシャバに舞戻れたぜ、まぁ 一杯ぇいこう! いやご苦労であった」
「おまたせいたしやした」と酒盗がすぐさま運ばれてきた。
「おうおう 待ってたぜ この日を首を長くして待ってたぜあははははははは」
お武家様、ご病気か何かのご回復の……」
「おお そいつよ、鬼の霍乱と周りの者は申すがな、誰が鬼なんだえ?」      当たりを見回す平蔵に
一同すかさず平蔵の方を指でさし示す。
「あっ こいつは一杯ぇやられちまった、そうか そうであったなぁ鬼の平蔵と呼ばれて盗人からも町奉行やお上からも嫌がられる、そいつがこの俺だってぇことなんだなぁ」
この言葉におやじの顔色が一瞬変わったのを さすがに平蔵見て取ったが、素知らぬ顔で
「おい おやじ、この酒盗はお前ぇがこさえるのかえ?」                   と話を向ける。
「あっ へぇ 酒盗はいろいろございやすが、やはりカツオが一番かと、それも初鰹が夏前の体の乱れを消してくれやす」
「うむ そうであろう、いやな この俺もその夏前の風邪を引き込んじまってこのざまよ、だがな こいつを差し入れてもらっていっぺんに吹き飛んじまったぜ、いや 礼を言うありがとうよ」
「恐れいりやす へぇ あっ ついでにこいつがまたお口に合うかと」
「ほう そいつは何だえ?」
「ちょいとお待ちを 今焼いているところでございやすので」
「おう 道理で香ばしい匂いが先程から」
「馴染みのお客さんからご注文いただいておりまして、焼き上がりが一番でございますから」
親父が持ってきた物は板を割って荒々しく削ったヒノキ板に竹串が末広に打たれ、傍に山椒味噌と江戸前の紫が添えられた串焼きであった。
「そいつは何物だえ」
「へぇ カツオのハラスでございますよ。油ののった処で皮、身の両面を強火で焼き上げすぐに冷水に落としてからよく水気を拭き取ります。
その後小切りにして山椒味噌や出汁醤油で頂きますが、御酒のお供にはもううってつけと」
「うんん そいつはまた美味そうな、なぁ五郎蔵」
「全くで、聞いているだけでもう木村様がおられましたら、なんと申されますか」
「おいおい こんな時に忠吾の話かえ、まぁ食いしん坊の立場では俺もなんとも言えねえがなぁあははははは」
「この薫り、成る程香ばしく、おう歯ざわりもよく山椒味噌、俺はこいつが気に入った。
旨ぇぜ、おい 食え食え」
「おぉ 中々に 中々に、こりゃぁまた困ったもんだぜ ええっ
さていかがしてくれよう、こっちが良いか酒盗が良いか、迷っちまうぜなぁ親父」
「左様でございますよ、土佐なんぞではハチキンと申しましてそりゃぁ男勝りの女房に隠れてでも酒が飲みたくなるとか……」
「おい いけねぇいけねぇ こいつばかりは女房殿には内緒にしとけよ な おまさ」
「ところで作り方なんざぁ教えてはくれまいのう」
「エッ お武家様にそのようないたずらが、ハッ!こりゃぁ愉快でございますね よござんす、さして面倒なものではございやせん、
カツオの胃袋と腸、肝臓、膵臓をよく洗って置きやす。
特に胃と腸は包丁の背でしごいて油を抜きます、これがまずは大切なコツ、
その次はこれらをフキンなどで拭って血抜きをいたしやす。
それを少々の塩を揉み込んで漬け込みます。
この塩加減が塩梅と申しやして、好みの分かれるところでございやす。
これを酒に味醂、はちみつなどを合わせまして一年ほど寝かせます」
「おいおい一年も待たねばならぬのかえ、はぁなんとも気の長ぇ話になっちまったぜ」
「ですがお武家様、果報は寝て待てと申します、一年も置きますとそれはまぁこのようにトロトロに……」
「はぁ 成る程ハチキンかえ、そういえば我が家にも一人おるおるそのハチキンが なぁ彦十」
「へぇ~ あっしは知りやせんよ なぁ五郎蔵さん!」
「へぇあっしはそのような……」
「おうおう どいつもこいつも裏切り者めが、なぁおまさ」
「長谷川様……」
「やれやれ おまさまで横向いちまったへぇぇん!」
そこへ老人が入ってきた。
「磯さん注文していたのはできてるかい?」
振り返った五郎蔵が(あっ……)と箸を落としかける。
その声に                                                     「おっ 五郎蔵さんじゃぁねぇかい」
 「宗平の父っつあん!」
お前ぇも変わらねぇようで何よりだ、俺はな、とっくに足を洗っちまってこうして今はただの隠居親父さ、所でこちらのはお連れさんかえ?」
「舟形の……」
「おっと こいつは失礼した、俺はこの五郎蔵とは馴染みのダチよ」             なぜか平蔵は五郎蔵の言葉をさえぎる。
「左様でございますか、これは遅れました、五郎蔵さんとは昔からの馴染みでねぇ、
所で五郎蔵さん、お前さん近頃いいお頭にお付きなさったってぇ噂を聞いたが、どんなお方だい?」
宗八はまさかこの連れが等の本人とも知らず、そう口にした。
「父っつあん この御方がその、今のお頭様だよ」                      五郎蔵は、先程の平蔵と宗八とのやりとりから、平蔵の意図汲みとった様子である。
「おおそうかい いいお頭のようじゃぁねぇかい よかったなぁ五郎蔵さん」
「おい 舟形の宗八とか言ったなぁ、暇なときゃぁ俺の家にも遊びにきなよ、茶でも飲もうじゃぁねぇか な!」
「へぇ ありがとうございやす、所でお住いはどちらで」
「俺かえ 本所三ツ目菊川町の火付盗賊改方よ」
「ええっっ!! それじゃぁあの……」                      宗平、腰をぬかさんばかりに驚いて、ヘタヘタとその場に座り込んでしまった。
「済まねえ とっつあん 今のお頭はこの長谷川平蔵様よ、俺ぁお上の狗になったのよ。だがなそのことをちっとも恥ちゃぁいねえ、むしろ誇りにさえおもっているんだぜ、今の世の中外道働きばかりで、昔のおつとめをする奴なんざぁ居やしねえ、昔犯した罪を今長谷川様のお役に立つことで償いをしてるのさ、このおまささんはたずかねの忠助どんの忘れ形見だぜ」
「おおつ あんたがおまささん そうかいそうかい いい娘さんにおなりなすった、忠助どんもさぞや喜んでいなさるだろうねぇ」                      宗八は目頭をおさえながらおまさの方を見やり、
「長谷川様恐れいりやした」                                  平蔵の前に両手を差し出す。
「おいおい 何の真似だい?」
「へい こうなったら潔く、せめて五郎蔵さんの手でお縄に」
「何? お縄? お前ぇが今何をしているってえんだい?なぁ五郎蔵
俺はこいつを食いに来ているだけだぜ、どうだい、せっかく知りあったんだ、一緒に俺の快気祝いをやってはくれねぇかえ、なぁ五郎蔵、おまさ 粂 おい彦お前ぇもそう思うだろう?
伊三次早く盃をもらってこねぇか、せっかくの酒もハラミも冷めちまう。
美味えぜ 今日の酒は特別に美味ぇなぁ
なぁ五郎蔵、俺ぁお前ェ達にいつもすまねえと思ってるんだぜ。
かっての仲間を売り、時にぁ裏切る、
それがどれほどてぇへんな事か知らぬわけではない、いつも懐に匕首を飲ませている立場だってぇことをな。
それを承知でお前ぇ達に辛ぇ思いをさせ、おかげで俺ぁお上のお役に立つことも出来る、それで世間が少しでも暮らし良くなりゃぁ俺の命なんざぁちっともおしくはねぇや、ありがとうよ!」
これこのとおりだ、礼を言うぜ」
 「長谷川様……」
舟形の宗平との新しい出会いであった。

 

土用のうなぎ


「御頭 夕餉の支度をと存じますが」                            本所菊川の役宅で探索の報告書を読んでいた平蔵に、与力の村松忠之進が夕餉の心配をしてきた。
「これは猫どの先程よりこう…えもたまらぬ香りが漂ぅて、腹の虫が騒ぎ始めたぜ」
「あっ やはりここまで流れてまいりましたか。本日は土用にて鰻屋の吉松が浦和より寄せましたる物を持ち込みましたので、ここはぜひお頭にとこの村松忠之進腕によりをかけましてございます」
「ふむ やはりウナギは浦和が名物よのう」
「無論でござります、そもそも土用の鰻は平賀源内とか申す者が鰻屋に泣きつかれて「本日土用 鰻の日」と書きし張り紙が元とか」
「平賀源内と申さば、田沼様お気に入りのお方とか」
「さすがお頭!そこまでご存知で」
「なぁにちょいと小耳に挟んだまでの事よ、で、どうしたい えっ?」
「はい、元々は土用にウの字の付く物を食しますと夏負けしないという風習もござりまして。梅干しやウリなども食しております、しかしこれまで夏場はあっさりとした物が好まれておりました。
この(土用丑の日)とうなぎ屋が掲げてからこってりしたものも食されるようになりまして。
中でも油も多く下世話に外道物と称しまするが、鰻は少々手間を掛けて調理致さば、これ、中々に旨く精も付きまする」
「なぁるほどなぁ、やはり料理も手をかけねば美味ぇものも出来ねえか、いや 人もな、手間がかかる奴と、手間をかける奴とがおる。手間がかかるのはこいつはもういけねぇ、だがな 手間ひまかけてでも……そんな奴は先が楽しみなものよ」
「さようでござりまするとも、このうなぎもこしらえようで江戸前上方と違いまして、上方の鰻は腹を割きますが、江戸ではこれは腹切りに通ずると嫌いまして、江戸前の鰻は背を裂きまする。
包丁も鰻裂きと申します専用の物を用います、これを四半刻程度強火にて蒸しまする。
上方では腹開きのママ白焼き致しまする、また筑前では焼き上げて蒸しまするせいろ蒸しが行われておるようで」
「なるほど 色々とその土地柄があるものよのう」     
「さようで、この焼き加減がキモでござりまして、一度焼きましたる物をどぶろくの熱燗と醤油に数度潜らせた漬け焼きがキモでござります。
醤油は薄口ではのうて、江戸の濃口醤油に味醂、これが肝要にござります」
「さすが猫どの、詳しいのう、いつもながらこの平蔵感服いたしおるぞ」
「いえいえそれ程のものでは御ざりませぬ、これに胃の腑の消化を助けます山椒味噌、これが決め手」
「なぁ 猫どの、この鰻には半助(頭の部分)は入ぇっておらぬが?」
「お頭!何とそこまでご存知とは村松忠之進恐れいりまする」
「なぁに、てぇしたことじゃねえよ、俺のは単なる耳学問、猫どの程の深ぇ知識たぁ雲泥の差」」
「めっそうもござりません、あっ 実を申さばこのタレ……」 
「日本橋葺屋町の大野屋ではないかえ?」
「はぁっ 何とそこまで……ご推察の通り大野屋より求めて参りましたもの。
何しろ代々受け継いだタレは鰻の身や汁、油がタレに混ざりて、言うに言えぬコクが生じまする、これを秘伝と致し、門外不出と伺ぅておりまする」
「さもあらんさもあらん、それが伝統と言うものよ。武士の習わしも左様であらばこれほどの荒んだ世の中にならずに済んでいたであろうに」              平蔵、田沼意次失脚以来、武士の一分が廃れている様を嘆いた。
「しかし良くそまでご存知で、お頭の耳は地獄耳と同心仲間よりも聞き及んでおります物の、村松忠之進兜を脱ぎまする」
そこへ妻女久栄が                              「殿様 香の物にござります」                         こう声をかけ、ひまつぶしを持って入った。  
「これは御妻女どの 中々良く気がつくのう、鰻は時がかかるゆえ、急がせるのは愚の骨頂、香の物に茶で時を過ごすのが良いと申すからのう。で、その向う付けは何だえ? どれどれ……
「ややっ これはまたなんと美味い!うん この何だなぁ干し大根の甘みにしじみの歯ごたえ、噛めばじわりと酢の旨さに柚香の薫りがまた供を添える、うむうむ いやこれはなかなか逸品でござるぞ猫どの!」
「はい!過日殿様が秋山先生のお供で大野屋とやらへ出向かれ、その折のお話を伺ぅておりましたので」
「あっ!然様でござりましたか……然様で」                   村松忠之進いささかへそを曲げた様子に、
「いや 面目ない!猫どのにそこまで言われると、ちょいと後が続かねぇなぁ。のう御妻女どの」                                      平蔵はツケを久栄に向けたものの、
「存じませぬ のう村松殿、ご自分一人が良い目をなされて、私共には話ばかり」  久栄、このときとばかり村松と共同歩調。
「左様でござります。この私めの鰻ではお口汚しに御ざりまするか」
「これはうかつであった、済まぬ済まぬ、そのようなつもりではないのじゃぁ、今度連れて参るによって、今日のところは猫どの手前、のう猫どの」           平蔵、両手を合わせ、久栄の方を拝む。
「お頭、ではどのようなおつもりで御ざりましょうや」                久栄と目を見合わせ村松忠之進。
「村松殿、その腕によりをお掛けなされた鰻を私に食べさせては頂けませぬか」
「それはもう喜んで、この村松忠之進更によりをかけて仕上げまする」
「では早速まかない場に参りましょう、ささっ早ぅ早ぅ」
「とほほ、おい猫どの、久栄ェ 弱ったなぁ 江戸の敵を長崎で打たれちまったかぁ」

 

 

周防のゆうれい寿司

この日、以前から気になっていた居酒屋の暖簾を分けてみた。          「やれやれ赤不動とはまた……」
平蔵、九尺二間の表で、風に揺れている提灯に書かれている屋号を見つけ苦笑したものである。                                   「以前から気にはなっておったのだが、赤不動たたぁ洒落た名前ではないか、それなりの曰く因縁でもあるんだろうなぁ。                      「こいつぁどうも恐れ入ります。あっしは周防長門の国厚狭郡中村の産(うまれ)でございます。がきの頃よく遊びに行っておりましたのが極道の藤先の弥五郎親分の所でございました。
そこともう一つ、ほとんど毎日近所の淨圓寺の境内でのあそびでございます。
何しろこの寺、月山富田城の合戦で、毛利方の日髙太郎勝房様が討ち死にしたのを偲んで日髙弥籐兵衛というお方が中山にあった禅寺の寶珠庵を寶珠山淨圓寺として開いたそうでございます」
「しかし、そのようなことをよく存知ておるな」
「はい、そこはそれ、淨圓寺のお庭を遊び場といたしておりましたもので、和尚の説法は耳にタコが出来るほどで」
「はぁ門前の小僧だな」
「はい、真よくも言ったもので、あははははは。そこには大きな公孫樹(いちょう)の樹がございまして、秋ともなると葉が色ずき、毎日ハラハラと舞い散ります。
秋になるとたくさんの実が落ちこぼれてまいります。
落ち葉に折り重なったまま、しばらく致しますと腐りだしますので、たいていは毎日境内清掃とともに竹籠に取り入れます。
これをしばらく放置いたしますと、いやはやこれだけは言いようのない臭が漂うようになりますが、これを近所の小川の棒杭に引っ掛けておきますと、水の力で綺麗に取れます。
それを御頭んところへ持ち寄って、掃き清めた落ち葉に火を着けて焚き火をするのがほとんど毎日の事、その焚き火にこの銀杏(ぎんなん)を放り込みますと、しばらくしてパチンと実がはじけ、淡い翠色の実が赤い衣を脱ぎかけて飛び出してまいります、これを拾って、皆さん方とふうふう言いながら食べるのが私ら子供の遊びでございました。
「何と羨ましい話だなぁ」
「ある暑い日に(坊!水浴びせんか)と木陰に盥(たらい)を置いて、子分衆に水を運ばせ、盥(たらい)の中に私を入れて遊んでくれました。その時に諸肌脱いだ背中に赤不動様が彫ってあったのでございますよ。
それを見た私が(かっこいいなぁ)と声を上げましたら(坊、大きゅうなってもこんな彫り物するんじゃ無いぞ、父(てて)ごさんがかなしむでなぁ)って言われましたがね。
その親分さんにはお子がなく、私が遊びに行くととても喜んで、私はその親分さんの膝の上が親の膝のようなものでございました。
私が十二の時、町の小料理屋へ板場の修行奉公をさせて下さいました。その頃覚えたのがゆうれ寿司」
「ゆうれい寿司?か……それはまた」
「はい、宇部は霜降山から流れ出る真締川と有帆川に挟まれた土地でございまして、もともとはむべ(常磐(ときわ)木通(あけび))と呼ばれておりました土地とか。
ここは米どころでございますので、その豊穣を讃えるために、わざわざ具のない酢飯を作ったとか板場の親父さんに教えられました」
「あぁ酢飯だけとはまた珍しい……だが、それだけではやはり少々……」
「あはっ、それはそれ、昔ながらの伝統(もの)と、忍び寿司の工夫を凝らしたものもございまして」
「然様か、それも又目先が変わればなんとやらと……」
平蔵乗ってきた。
「では早速に」
「ああ、ところでお武家様、酒はお達者で?」
「うむ、まぁ嗜む程度なら」
「嗜む……一番怪しいお返事で」
「なぜだ?」
「いやぁ、昔、藤先のお頭様が(酒を嗜むなんてなぁとんでもねぇ話だ、聞けば、あれば一升でも二升でも嗜める)ってね」
「あはぁ、それは上手いことを言ったものだ」
平蔵、この男の洒落っ気に半分呆れたものである。
「ところで、先程のゆうれい寿司の話だが、色々とあるとか、どのようなものが有るのだ」
「はい、古くは酢飯に冬は柚子の絞り汁、夏場は青柚子の絞り汁を入れただけの酢飯だけでございました、ですが、これに仙崎あたりから運ばれてまいります塩さばや干物、戻した塩鯨などを酢じめにして乗せたりするようになりました。
「おまちどうさまで」
そう言って膳が運ばれてきた。
「ほう、これは又何とも……」
四角に切り分けられた表は、聞いてはいたもののただの白酢飯に平蔵、少しばかり意表を突かれた面持ちではあった。
「春ならばこの表に青柳の葉を二枚ならべて……」
「あはははは それではまるで幽霊でも出そうな……成る程これは面白ぇ」
「はい、この酢飯は白魚のエソをすり身にしまして、酒、醤油、塩を合わせたすし酢に、このすり身を加え出来上がりで、中に入れます牛蒡(ごぼう)や人参、油揚げに塩漬けから戻した山菜を混ぜて砂糖や、醤油、酒、味醂で煮付けます。
昆布で炊きあげた白飯に、先ほどのエソのすり身を混ぜ込んで酢飯を造ります。
この酢飯を三ッ割に取り分けて二ツにかやくを混ぜ込み、下に芭蕉の葉や,葉蘭を敷いて、その上にこの酢飯を敷き詰め、錦糸卵やおぼろを敷いて、その上に白酢飯を敷き、又詰めながら繰り返し、数段重ねた上に白酢飯を重ねて、表に芭蕉葉や葉蘭を敷き詰めて蓋をし、重石をかけて形を整え木枠を外し、目付板を置いてそれに合わせて包丁を入れます」
「何と手のかかる仕事だな」
平蔵はこの素朴な物にそこまで手を掛ける料理人のこだわりを感心していた。
「さようで……まぁ早速お口汚しに」
と青竹で作られた箸を取り上げた。
「では馳走に相成ろう!」
平蔵も箸を取り上げ口に運んだ。
「うん、この薫りは青柚子……それにこの酢飯の具合が、いやこれはこれはまろやかで、口の中で拡がる心地の良さ、これは一朝一夕で出来るものではないな」
ほとほと感服の体である。

 

 

 

 

彦十  銕つぁんよぅ、もういけねぇや、おまさ坊に猫背の彦さんだよって言われちまっ      たよぅ
鬼平  へっ、彦よ、お前ぇも、とうとう末期高齢者のお仲間かえ?
彦十  あっ、やだねぇその言い方ぁ、そいじゃぁまるっきしおいらは老いぼれてぇこと      じゃぁ
鬼平  いやかえ?ならばそいつを直し健康優良爺いにならねばなるまい。よしならばとっておきの
治療法をレクチャーいたそう。まずは畳に上向きに寝そべる、ついで両手を頭の天辺に
置いて肘が浮くか浮かぬかが見極めだ。
彦十  やだようぅ銕つぁん、浮いちまう。こりゃぁなかなか着かねぇ。
鬼平  まぁそんなもんだ、こいつを朝晩2回ほど頑張って着くように女の股力だ、努力だよ
彦十  けっ、おんなじ女の股力なら、おいら金猫のほうが性に合ってらい
鬼平  懲りない野郎だ、まだ松井町の観音様かえ?まぁよいわさ、そいつの願いも叶うだろうぜ
彦十  ほんとかい、ほんとかい銕つぁんの旦那ぁ、なら、オイラがんばるぜぇ
鬼平  キャッシュな野郎だなぁ。ではまず寝転んで両手を頭の天辺にやり、ゆっくりと腕を横に
拡げる。その時出来るだけ腕を畳から離さぬよう、じっくりとやることだ。それで肩甲骨が広げられ、肺が大きく開くので、まずは口をすぼめゆっくりと息を吐き出す。そこから4・4・8・4の法則を用いて呼吸をする。華麗になれば……加齢であった、加齢となればどうしても猫背になり、従い肺が狭められ、呼吸が浅くなる、これが細胞老化の元凶だなぁ
彦十  なんでぇその細胞廊下なんてぇところぁ歩いたこともねぇよう銕つぁん
鬼平  まぁな、いわば脳みそに新鮮な酸素が送れなくなり、それが認知症の原因ともなるという訳だな。認知を防ぐにゃぁお前ぇ、しっかりと深呼吸をして腹筋を鍛えることが大事だ、まず、息を吐いたら、4秒くらいかけてゆっくりと鼻で息を吸い込む、腹いっぱい胸いっぱいに吸い込んだらそのまま4秒息を止め、今度は口をすぼめ、8秒かけてゆっくりと吐き切る、そのまま4秒我慢して、また鼻から4秒かけて吸う繰り返しで10分続ける
彦十  結構乙なもんでございやすねぇ
鬼平 だろう?中々胸に息が入らぬものだ、腕を広げれば胸が開くので吸い込みやすくなる、おまけに歌う時に下丹田に息が貯められるので、音程のぶら下がりがなくなるんだぜ。出来うればだがな、寝そべって両脚を腰から直角に曲げ、膝を直角に曲げて呼吸をやれば、インナーマッスル(内筋)も鍛えられ腰痛の原因が取れるからなぁ。足上げは1分で良いぜ
彦十  えへへへ、嬉しいことを言ってくれるじゃぁございやせんかねぇ銕つぁんの旦那よぅ
鬼平  肺に酸素が少ないと脳みそへはほとんど酸素が行き届かぬ、それが脳の血液不足を招き、認知が始まる。脳みそに新鮮な血液を送るには呼吸が深くなければならぬ。血の巡りが悪くなれば全てに老化が始まるのだぜ。ゆっくりと息を吐ききることは、なかなかに大変だ。8~10秒で吐き切れるほど吸うためには、まずは吐き出すことが重要だ、そのために腹の上に手をあてがい、思いっきり腹を引っ込める、されば息苦しくなり呼吸をしたくなる。
上手に吸うには、まず腹一杯に吸い込み、次に肩を上げる気持ちに胸を膨らませる、これで横隔膜が十分動かされ、肺が開き、下丹田にも息が貯まるという仕掛けだな
彦十  ひえ~~下丹田とおいでなすったね、こいつぁ気功で習いやしたねぇ銕つぁんよう
鬼平  おお、それからもう一つだ、こいつも大事な一つだ覚えておけよ彦!立ったままで両脚を肩より広く開き足の先は外向きだ、で、両手を前に伸ばしたまま、ゆっくりとケツを下におろす。よろけるようなら何かに捕まっても良いぜ、大事なことは膝が足の指先から前に出ぬことだ、そのためにケツを後ろに持ってゆきながら下げると良いぜ。無理のないところまで下したら、そのまま10秒こらえる。これで筋肉がついてくる。この10秒が大事だぜ                             彦十  てててて銕つぁんよぅ、こいつぁ大事だぁ、10どころか5つもいかねぇ
鬼平  無理はせずとも良い、自然に出来てくるさ。それとな、こいつも何かにつかまっ      たまま片足で立ち、膝を少し曲げ、そのまま1分堪える。こいつを交互に3回ほど繰り返すと、足指や膝の筋肉も鍛えられ、物につまずきにくくなる。これが健康優良爺童になれるコツじゃぁ

 

 

 加齢なるギャッピーじゃぁ

これはまた猫どの、坐骨神経痛にでもなったのかぇ?                 御頭!笑っている場合ではござりませぬ。老化というものだれにでも等しく訪れます、 近頃は他出もなかなか、町医者の聞きますところでは、猫背になると椎間板に歪みが出 それが股関節や膝関節に影響を及ぼし、痛みを生ずると申されました。          そいつはやむをえまい、そちは猫どの……                             笑っている場合ではござりません御頭、で対処方法はと伺いましたるところ……     スクワットであろう                               どうして御頭ご存知で?                             同病相哀れむと申すではないか                                あちゃぁ……                                  膝がつま先よりも出ぬように、尻を落とし、ゆっくりと戻す、こいつを3~5回…    1日3度程度実行だと申されたであろう?                                          ピンポ~ン!まさに、それからいずに座って方足を伸ばし、かかとを起こすように曲げ 伸ばしたまま天井の方へとゆっくり上げる。                                              まさに!                                     これが結構きつうござりますなぁ御頭                                                       それから片足で立つ……これがまた殊の外難しいのぅ                          よろめきそうで、おまけに片目でもつぶろうものなら転倒間違いなし                          嗚呼やんぬるかな……                               今月はやたら……が多ござりますなぁ御頭。                              すっかたなかっぺっさぁ、来年は80だぜ                         とほほほほ                                   それはそれで、また別のやつも見繕っておいたぜ                         それはまたどのようなものにござりましょうや                     おお、1回で20回の腹筋効果というやつよ                        ジェジェジェッ、それはまたどのような                                  どうせお前ぇも腰が上がらぬであろう?故に足首を誰かに押さえてもらうか、なにかに 引っ掛けて足首を固定し、腹筋を使って起き上がり上体を起こす。            それから両手を頭の後ろへ伸ばし、バタバタバタバタと20数える          それだけで?                                  おおさ、それだけで腹筋は100回やった効果があるそうだぜ            あるそうだ?では御頭はまだお試しになられたわけでは?              そこだ!こいつは年功序列と申してな、真惜しいことだが猫どのに譲ろうと想う     げげげっ、てまえが人身御供になるのでござりますか?               おおさ、人のお役に立てれる、こいつぁ願ってもなかなかなれぬ、励めよ!       はぁ、すでに禿げておりまする

 

 

なんとも情けない話でござりますなぁ御頭。  それはまた何だな忠吾?  あれっ御頭は安倍様の葬儀をご覧にはなられませなんだので?   いや讀賣で囃し立てておったゆえ電気紙芝居にて観てはおったぞ   ではあの騒ぎをご承知で御座いますな  つまりは安倍殿の顔写真のシャツに水鉄砲ごっことか、はたまた射的の的とか、さらには森加計蕎麦や山上容疑者の映画のことかな?   ピンポ~ン アタリ!どのようないきさつがあるにせよ、故人に対してかような無作法がまかり通ること自体呆れ果てましてござります。   そうさなぁ、世界の要人が見えられる真っ最中に、言論の自由という大義名分を旗印があっても、なすべきことではなく、世界に我が国の民度が知れ渡ったはずだからなぁ。   おまけに害務大臣は台湾の弔問を半ば締め出す工夫でプーさんに色目を使うという愚行は可笑しゅうござります。   まぁ検討することを検討する総理だからなぁ、そこんところも検討中であったのではないかな?    んなぁ~、これでは我が国は周辺国よりの驚異をち~とも感じておらぬというアピールではござりませぬか。  台湾もメリケン国も、いやさぁお富、これじゃァ一分じゃぁすまされめ~よ   イヨッ播磨屋!

 

検討士総理の巻

忠吾 御頭、ちまたではなんちゃら協会?の話題でもちきりで……いやはやモテますなぁ、あやかりたいもので。   鬼平 そこだ、のぅ忠吾、この協会を違法であると言うことにすればどうなる?  忠吾 どうなるって御頭、どうなりますので?  鬼平  嗚呼やんぬるかな!宗教は自由であると我が国は認めておる。したがって幕閣のお偉い様たちは自由に関わりを持っておる。こいつは違反ではない。  忠吾 では何故あそこまで騒ぎますので?  鬼平 それだ、騒ぐことで得をする輩が居るからであろうよ  忠吾 それはまた誰のことでござります。  鬼平 さて誰というと問題が大きくなるなんちゃらオリンピックはすっかり影が薄くなってはおらぬか?  忠吾 はぁ確かに巨額の金がばらまかれたという話はすっかり影を潜めましたからなぁ。  鬼平 そうであろう。事程左様に隠したい者共と各して欲しい者共の意見が合致、コレをおさきいぼうかついだかわら版が騒ぎ立てる。出来レースだなぁ  忠吾 それはあんまりなぁ  鬼平 よく考えてみるが良い、宗教と政治は分けるという政教分離の決め事も、今やなし崩しだ。宗教が政治を動かすことは危険だからこの法案が出来た、そのためにこの協会に関わっているお偉方は、親分衆コリア様の都合の良い方向に政を動かしておる、したがって領海侵犯でも「遺憾でござる」という水鉄砲を射つだけで問題クリア!一件落着だな。  忠吾 そんなぁ~それでは国のことは考えてはおりませんなぁ  鬼平 あたり気車力の人力車!あちらが親元でこちらは子分、エヴァはアダムに尽くすのが神様の教えだとか。  忠吾 はぁそこで引き剥がしを狙って……ですがみょうでござりますな  鬼平 何がだ?引き剥がしの意味かぇ?  忠吾 まさに!この協会がサタンであるならば、他の宗教団体もサタンという事になりはいたしませぬか?  鬼平 おお、よくぞ気がついた。まさに!この協会の宗教が悪いという事になれば、他の宗教団体もサタンの成り代わりということになり、こいつぁすべての団体が、反社会的な団体であるという話になるからなぁ。  忠吾 ◯暴団とどう書くという話になるので?鬼平 その通り!だからこの団体に関わりを持っている事自体を責めるのはちょいと間違っておるという話だな。  忠吾 ではやはり政教分離を断行しなくてはなりませんなぁ  鬼平 できるかな?公明正大なお方が反旗を掲げておらっしゃる  忠吾 まるでオロシヤのようでござりますな  鬼平 まずここをはっきりと致さねば……はてさて、検討士総理殿はどのように決着をおつけなさるか見ものだぜ忠吾

 

 

世にも不思議な物語じゃぁ

忠吾 御頭、なんとか協会(教会)の話ではアダムとエヴァの物語が始まりだそうにござりますな? 鬼平 そうさなぁ、聖書ではアダムとエヴァの子供がカインとアベルと書かれておるが、さてさてどこからアダムの外ばらの娘がいると書かれておるのであろうかな?儂には皆目見当もつかぬことよ。  忠吾 ではエヴァの間男は誰でございましょうや? 鬼平 さて、そいつぁなんちゃら協会に尋ねてみねば分かるまいよ。  忠吾 ですが御頭、確かなんちゃら協会はいつの間にか教会に変身~~~~んいたしておりますなぁ  鬼平 まぁよくある話ではあろうよ、面妖なるところだからなぁ。  忠吾 私が考えますに、もしやエヴァの間男はまさかの蛇ではと……  鬼平 そこら辺で新しい教祖様が生まれたのかも知れぬぜ。何れにせよカインとアベルはレンズ豆のことで口論になり、殺っちまった、ここから人間の歴史は殺人で始まったわけだ。世の中がどうやっても殺人と縁の切れぬのも無理もない話だ、神様が決められたことだからなぁ。おろしや国の問題で、今話題殺到の穀物だがな、忠吾、世の中の経済はなんで回っておるか存じているか?  忠吾 まさかアフターコロナ  鬼平 ああやんぬるかな、世界の経済はまずオイル、それから穀物、それに武器、最後が医薬品だどうだな?忠吾 御頭、それは真でござりますか?   鬼平 おお真も真まんまことだ。今や石油はどうなっておる?検討士岸田くんの無手勝流は全く庶民には縁のない話になっておろう?なぜコロナの日本製の医薬品を認めんのだな?アメリカさんから買わねばならぬからであろう?だれが儲かるのだな?アメリカの薬屋さんだ。それにだ、憲法9条、このようなもの削除すればすむことではないかな。いたずらに残したままやろうとするから無理が生ずる、初めから無ければ検討士も素手で勝てようぞ。自国を自国の軍隊で守る。当たり前だのクラッカ~じゃぁ。

 

控えおろう!これこそ神様の食べ物じゃぁ

鬼平 こりゃぁまた猫どの、疲れ果てた顔ではないか
村松 そりゃぁ御頭この暑さ、梅雨入り宣言もつかの間の青春
鬼平 おおっアズナヴールで参ったか
村松 ちゃはぁバレバレで
鬼平 判っておるちゅうに
村松 何しろこの激務でござります、この老体には少々きつうござります
鬼平 うむ、元気を出さねばなぁ……おおそうだ!猫どのお前ぇは食い物が得意だ、も           しや神様の食べ物を存じておろうな?
村松 神様の召されたものにございますか?
鬼平 おお真それじゃ
村松 チェンチェンしりましえん
鬼平 あちゃー ほれ聖書に出てくるではないか、アダムとイヴがエデンの園におっ   たころじゃぁ、神様がこの園のどこの樹からも取って食べても良いが、あの2本の樹   だけは食べてはならぬ、食べたその時あなた方は死ぬ と言われ2本の樹を指し示された、これが禁じるという文字になっておる
村松 じぇじぇじぇっ、日本語って素晴らしいなぁ。で?確かふたりとも食べたかと
鬼平 然様、狡猾な蛇が(あの実を食べてはいけないといったのは、食べるとあなた方   が神になるからです)と言うたのじゃな
村松 で、食べたわけでございますな
鬼平 その通り、その折食べたのは2本の樹の一つ知恵の樹だ、で、結局はじめについ   た知恵が、互いに裸であったので恥ずかしく、いちじくの葉を綴り合せて前を隠すという知恵であった
村松 なんとお寒い知恵で御座いますな、で、残る1本は何でございます
鬼平 それが生命の樹と呼ばれておる、今風に申せばデーツだな
村松 あのドライフルーツでございますか
鬼平 まさに!大抵の店で手に入る代物だ、栄養素はまさに神様の食べ物だ、バランス   最高だぜ、オタフクソースが甘みを出すのにこのデーツを加えておるために、あのまろやかな旨さが出ているという話だ、加齢や美容に良いポリフェノールはドライフルーツの中でもダントツだからな、しかも認知予防や腸内環境改善になる
村松 それをどのように食せばよろしゅうございましょうか
鬼平 そうさなぁ、プレーンヨーグルトにこいつをキッチンハサミでチョキチョキ刻ん   で一晩冷蔵庫で寝かせる。これで旨いフルーツヨーグルトの出来上がりじゃぁ
村松 ということは快便開通一直線!!でゴざりますな、てへてへてへ、早速フジへ出   陣いたしまする

 

忠吾 御頭!梅雨ともなれば、やたら寝付きが悪ぅございますなぁ
鬼平 へぇ立っても寝ておるというお前ぇから、さようなセリフを聞こうとは、    儂も年をとった
忠吾 そりゃぁまたあまりのお言葉にござります、私はコロナマスクで息苦しく、故に呼吸が浅くなり、それで寝付けないのだと思っておりましたが。
鬼平 おお、そいつぁ当たっておる、マスクをすることで呼吸が浅くなり、従い肺の動きも衰え、血行が滞る、故に今のお前ぇのように認知が始まるということだそうな。
忠吾 じぇじぇじぇっ!認知でござりますか
鬼平 うむ、呼吸が浅ければ心臓はさほど働かず、脳への血流も減少し、したがって脳内細胞が死滅する、当然のことだそうな
忠吾 では、それを防ぐには如何様なることを致しますとよろしいのでござりましょう
鬼平 お前ぇも存じておろう、発声練習じゃ
忠吾 あのぅ、あ~あ~あああああ~で、ござりますか?
鬼平 ピンポ~ン、おい彦十、此奴に座布団1枚やっとくれ。深呼吸は3秒で鼻から吸い、8秒かけて口からゆっくりと吐き出す。その折腕を背中で組むと良いそうな。肺が広がり猫背も治る一挙両得だぜ
忠吾 うれぴ~!それだけでござりますか?
鬼平 寝床で3秒息を吸い、口をすぼめ8秒かけてゆっくりと吐く、こいつを10分毎日やると良いぜ
忠吾 何だぁ優しゅうございますな
鬼平 だから続かぬのだ!おおそうだ、寝床に着く前にふくらはぎをもんでおくと良い、下半身の血液は心臓へ戻りにくいゆえ、こいつをモミモミしてやると、血液が心臓へ戻るゆえ、血流が改善され、脳内にドーパミンが発生して深い眠りが起こる、故に消化酵素が働きやすくなり、疲労回復につながるそうな。常日頃から我らは味噌やチーズ、ヨーグルト納豆、豆腐と発酵食品を食しておるが、これらはいずれも酵素の働きだ、これらのタンパク質の一つが酵素だ。栄養素を分解する折化学反応を起こさせるのが酵素だ。酵素には食物酵素と代謝酵素   それに消化酵素が有り、消化酵素がまっさきに消化される、酵素は熱に弱いから、野菜などは生食が最も良いという。だがこいつぁお前ぇに似て熱に弱い
忠吾 ええっ、私が熱に弱いとは、それはまたどのような
鬼平 はぁ、お前ぇはしょっちゅうお松に熱を上げておるではないか
忠吾 あじゃぁ!そこまでご存知で
鬼平 愚か者、己の配下の者を知らずして、御頭が務まるか!酵素がしっかり働けば、基礎代謝や血行促進などが活発になり、お前ぇのような脳みそでも血流が促進されるゆえ、認知症を防ぐ。つまりさほどに発酵食品を主に食することが大事だということだ。
   寝ておる間に酵素が働き、翌日までに体調を整える、つまり良い呼吸と良い酵素食物は両輪のようなものだ。寝床に入ったならば、腹の上に手を置き、そこが上下しないように、ゆっくりと胸で呼吸をすることから始めるがよかろう。健康は誰も替わってはくれぬものだぜ忠吾
彦十 そうすりゃぁ銕つぁん、おいらもまだまだ岡場所へ通えるってぇもんでござんすね
鬼平 お前ぇはムスタキ殿だ、
忠吾 何でござりますそれは?
鬼平 「時は過ぎてゆく」の原題「もうおそすぎる」じゃぁ
彦十 嗚呼やんぬるかな……                               忠吾 お頭、何をお読みになられておられますので
鬼平 うむ、ホリスティック栄養学という、心と体と食物は関連しておるという考え方の書物じゃ
忠吾 何じゃぁそりゃぁ……でござりますな
鬼平 お前ぇが昨日食っておったお取り寄せスイーツは、美味かったという満足を覚える、すると少々足りぬお前ぇの脳みそに(世は満続じゃぁ)というドーパミンと呼ばれるホルモンがドバ~と出ることになる
忠吾 にゃはぁ、よろしゅうございますなぁ
鬼平 ところがバター・マーガリン・ラード・ショートニングなどは飽和脂肪酸という常温でも固まる奴で、血管にこびりつく厄介者だ。
反対に常温でも溶けるやつを不飽和脂肪酸と呼ぶ油で、サラダ油・オリーブ油・米油・えごま油・亜麻仁油・ごま油などだな。揚げ物には米油を使うと良い
忠吾 ではマックやほんにゃらチキンはよろしゅうござりませんので?
鬼平 マック殿はジャンクフードと呼ばれておる、いわばこの世の嫌われもんよ……
忠吾 座頭市でござりますな
鬼平 出来るなお主!まさに…ゴミ食品だ。理解りやすく言えば揚げ物などの茶色食品が主になる
忠吾 唐揚げなどで?この木村忠吾の大好物にござります、ケンタのおじさんの大ファンで
鬼平 さもあろう!これらの大半がショートニングを使っておる、カリサラと揚がるゆえにな、此奴らを消化分解するのも酵素だ。どうだな、いかに酵素が大事か理解ったであろう。だが此奴、加齢とともに弱体化いたす、1日に体内で作られる酵素は一定量、故に過食、油っぽい物などは更に多くの酵素が必要となり、酵素不足が起こる、結果老化や疲労が残り、老化や加齢が促進するという、美味いは体に悪いと同義語だ。
忠吾 じぇじぇじぇっ!
鬼平 味噌や納豆、チーズなどの発酵食品は代謝酵素なのだが、酵素は熱に弱いゆえ味噌汁などはスーパーフジでも売っておる(やすまる)という出汁の素を用いれば出汁の旨味満載で久々のヒットだ。こいつで汁の具を煮込み、一旦火を落とし60度程度まで冷ましたものに味噌を溶かし入れれば、味噌の香りと酵素が摂れる極め技だな。
忠吾 シェ~~~~!
鬼平 チーズは三角や四角の小さなものが多種多様に出回っておるゆえに、好みでチョイスすれば良い。運動の後のチーズは効果絶大だ。おお、そうであった、納豆はひき割りがよろしい!間違ぅても生卵はいかぬ、生ならば卵黄だけだぜ、白身は栄養素を阻むからな。
忠吾 なぜでござりましょうや
鬼平 卵殻はスカスカで、細菌はす通り出来る、そこで白身は殺菌作用を持っており、栄養素を殺害致すゆえだ。玄米も同様にヌカ成分が栄養素を阻害するゆえ、逆に栄養素が取れなくなるということだ。
忠吾 んなぁ~。玄米は良いと厚労省が……
鬼平 確かに栄養素はある、が、それが体内に入るためには玄米を発芽させねばならぬ。
忠吾 あのぅ、発芽玄米というわけでござりますな
鬼平 ピンポ~ン!その通り、発芽させればフィチン酸というヌカ成分が新芽となるゆえ栄養素になるという話だな。体内に代謝酵素が多ければ基礎代謝が上がり、免疫機能が促進される。お前ぇ達や密偵達のように、儂にとっては欠かせぬ者よ
忠吾 お頭!涙が出ますなぁ

 

 

 

ロシアの思惑を外れ、ウクライナが持ちこたえているが、北大西洋条約のNATO軍は介入はできず、国連も全く機能していない。かつて日本はこのABCD包囲網によって戦争への道を突き進んだ経緯がある。ウクライナはコサックと呼ばれている地域で、彼らもまたロシと共にメギドの丘へと攻め上がると記載されているところからも、ウクライナが陥落したら、まさに第3次世界大戦の準備が整ったということになり、そのときには米国の力が弱まっている。日本はこのまま米国の傘の下で我が世の春を満喫できるのかということを考えなければならない時期にいるのではないでしょうか?冗談ではなく南太平洋条約機構でも構築しなければ、あとがないと政府の中に感じる人がいてくれることを祈るばかりです。

今日は2022年2月28日。午後にもロシアとウクライナが和平?交渉を開催する予定です。下記の記事は2005年に同人誌に掲載したときのものだが、やはり起こるベくして起こるというのがショックだった。私を含む世界中の多くの人々がまさか……と思ったことが実際に起っている。ロシアを追い詰めれば石油やガスの供給をEUは止めざるをえない。すると米国の液化ガスがEUに売り込め、米国経済は助かる。困窮したロシアはこれ以上の開発資金がなく、それを中国が援助という形で乗り込み、これらを牛耳れる(安く買い叩ける)だから、この度のウクライナ戦争は米中の思惑で進んでいるとも言える。したたかな国だからである。

下記の記事は2003年から書き始めた同人誌の投稿記事 

第一次世界大戦までは、戦争その物は国際法上違法ではなかったが、このときにヨーロッパで新型の武器飛行機、戦車や細菌兵器が使用され、戦争史上最悪の結末を迎えた。敗戦国ドイツは巨額の賠償金支払いを拒否したため、フランスが「安全保障の為」と言ってドイツのルール地方を軍事占拠した。                     つまり安全保障は別な言い方の侵略なのだ。侵略戦争であると断定するのが国連安全保障理事会だ、と言うことは米国、英国、フランス、ソヴィエト、中国の5カ国が戦争しても侵略とは断定されない仕組みになっている。                        戦後日本とドイツを侵略戦争であると裁いたのは彼らである事を頭に置いて頂きたい。彼らのルールで彼らの戦争を考えたとき、自衛戦争と侵略戦争は同義語であるとしか言いようがない。いかなる戦いも彼らの土俵でしか闘う方法がないのだ。        この内容を戦争だけに限って観ると、50数年平和に過ごせた日本人は、対岸の火事に思えるが、彼らが言う戦争とは、経済も情報も同じことなのだ、その事は彼らの思考回路が平和イコールあらゆる方法の力による屈服と総体的な管理の図式でしかないからだ。                           
エゼキエル38-14 それゆえ人の子よ、預言してゴクに言え、神である主はこう仰せられる、私の民イスラエルが安心して住んでいる時、実にその日、あなたは奮い立つのだ。15 ロシ、(ルーシ、ロシアの古名で、明治時代までは記述されていたが、現在は削除されている)あなたは北の果てのあなたの国から、多くの国々の民を率いて来る、彼らは皆馬に乗るもので大集団大軍勢だ。
38-5 ペルシャとクシュ(エチオピア)とプテ(リビア)も彼らと共におり、皆楯と兜を着けている。6 ゴメル(ドイツ)とその軍隊、北の果てのペテ・トガルマ(トルコ、イラン)とその統べての軍隊それに多くの国々の民があなたと共にいる。                 39-1 メシェク(モスクワの語源)とトバルの大首長(ロシ)であるゴクよ、私はあなたに立ち向かう。
15-16 こうして彼らはヘブル語でハルマゲドンと呼ばれる所に王達を集めた。(原文はハルメギドつまりメギドの丘)混乱しそうであるが、第三次世界大戦の引き金は預言でもハルマゲドンが中心に起るとあり、現在其処に向かって胎動を始めたことが判る。  最終的にはこうなることは日本を除く世界の常識であることを認識しておいて頂きたい。
分りやすく言えば、終末期にはロシアがペルシャやエチオピア、リビア、トルコ、イラン等を引き連れてハルマゲドンに集結する、このときに対抗する神の軍隊の数は144、000人と銘記されている。                            時期から言うとエゼキエル38-8 その民は多くの国々の民の中から集められ、久しく廃墟であったイスラエルの山々に彼らは(中東和平締結完了した後)安心して住んでいる。今しばらくは猶予がありそうで、小競り合いの演出をしつつ、これに向かっていることは明白である。最終的にはロシア連合とユーロ連合の衝突だが、不気味なのが中国で、火種は朝鮮と考えると、日本も対岸の火事場泥棒よろしく特需で浮かれているとクビキを絞められることになる、聖書という4000年前の言葉が、まさに神から預かった言葉、預言であることをご理解頂ければ幸いである。